東京芸術劇場 『William Shakespeare's Richard Ⅲ リチャード三世』

あら。プレビューだったんだね。 舞台闇。目の奥の方へ、奥の方へ、後退してくるような、抉ってくるような闇。滴るような濃い闇だ。ゆっくり客席が暗くなり、激しいドラムのリズムに揺れる人々が現れる。全員が糊のきいた白いシャツと、黒いパンツを身に着け…

シアターコクーン・オンレパートリー2017 『危険な関係』

中央に引っ張られ、皺を見せ、緊張を見せる左右の黒い幕。誰にも明かさない胸の奥。原作のいろいろのせいで、信賞必罰のはなさか爺さんみたいな話かと思っていたよ。ところがこれは、高度で張りつめた駆け引きと、洗練と退廃の極みの登場人物による、怖くて…

浅草見番 三遊亭萬橘定期独演会 『第13回四季の萬会』

その土地の芸妓さんの束ねや調整事務をする見番、その浅草見番の二階の広座敷で、今日は萬橘さんの定期独演会。 畳には一面に白い座布団が敷かれ、畳に座るのがつらい人たちには、10席ほどの椅子席がある。プロセニアムアーチ(?)の向こうが板張りで、高座…

PARCO & CUBE 20th present  『人間風車』

気持ち悪いものが大嫌い、なのはなぜだろうと考えてみる。飛び散る血だのはじける脂肪だのがだめ。それは血も脂肪も全部「わたしの」であるせいだ。いつも被害を受け、いつも痛い。「痛い目にあわされる側」に必ずいる。アクション映画でスカッとしたことも…

さいたまゴールド・シアター第7回公演 『薄い桃色のかたまり』

1ミリのあいだに3本から4本の髪の毛を彫ったという江戸の浮世絵彫師、俳優のセリフ術にはそれに近いものがあると思う。細い線を出すだけでなく、強い線や柔らかい線、下絵通りにそれぞれを削り出していかなければならない。たいへんだよね。 さいたまゴール…

新宿武蔵野館 『望郷』

子どもの鉛筆の持ち方が変でも、一家の実権をもつおばあさんと同じであるため、直してやることができない。というようなことは結構よくある。この映画に出てくるとある島の田山家も、そのような家の一つ。母親が無意識に、娘を自分より幸せにすまいと図り、…

good morning N°5 『豪雪』

白い段状の舞台で「GOOD MORNING」と書かれたTシャツを着た俳優たちが物販をしている。彼らは芝居の準備のためにほどなく去る。一人残された作・演出の澤田育子が、上演中の諸注意を説明する。この芝居(ダシモノ)ではまず、飲食自由、飴の包み紙の音自由…

渋谷TOHO 『三度目の殺人』

ピーンと聴こえるピアノのような耳鳴りのような音、現れた三隅(役所広司)は、白っぽい眼をしている。凶いことをする人の眼って、あんなふうに白っぽく見えると思う。ところが、この30年前に強殺の前科を持つ男は、わけがわからない。強盗目的ですねと言わ…

博多座 『坂東玉三郎×鼓童 幽玄』

お能の鼓の拍子は、続けて強くたたかないのがものすごく印象的だ。同じ間合いで、つぎもやっぱり大きないい音が来るだろうと、観客の身体が予測して待ち受けているのに、それをすかすように、外すように、ごく小さな、デリケートな拍子が鳴る。受け手のアン…

新国立劇場小劇場 シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV vol.3/4 『ワーニャ伯父さん』

揺れる葉叢、大きい葉、小さい葉、浅瀬で模様を描いて透明に盛り上がる小川の水、花、滴をためるくもの巣、丸く差し込む日の光。景色をぼーっとみていると、一つ一つが異なる音を発しているような気がしてくる。「調子」を感じる。このケラリーノ・サンドロ…

FUKAIPRODUCE 羽衣 第22回公演 『瞬間光年』

暗い舞台。波の音。スモーク。 ランダムに4つ下げられたやや大きめの電球に、飾りのシートがうろこみたいに貼られている。宇宙のただなかに、電球のように吊るされて、自分のつま先越しに、底深い闇を見る。 窓を開けようとしている男(男ちゃん=キムユス)…

シアターコクーン・オンレパートリー2017 『プレイヤー』

先週お能観たばっかりだからかもしれないが、異界って、目に立たないほどのゆるやかな坂をすり足でのぼり(あるいは下り)、気づかぬうちにたどり着いている場所なのだろうと思う。あるけどない、ないけどある、そんなところ。作者の前川知大も、異界につい…

カクシンハン第11回公演 『タイタス・アンドロニカス』

おもしろい!と驚愕し、さっきまであんなにパンフレット1500円に拘っていたのを忘れる。 可動式の低いイントレに白い覆いが、いい具合に末枯れた感じで継ぎ目の皺を見せている。その上にぎっしりと立つ登場人物たち。エアロンになる俳優(岩崎MARK雄大)が、…

杉本文楽 『女殺油地獄』

世田谷パブリックシアターの舞台の丈いっぱいに広がる大きな暗がりを、こちらも目をいっぱいに見張って見上げる。人形になったような気がする。あの暗さの向こうに、今日あたしが繰り出す膝、伸ばす指先の、決められた道筋があるのだ。そしてその先にキメラ…

日本総合悲劇協会 vol.6 『業音』

〈好きなのにあの人はいない〉明るく暗く危険な愛の歌謡曲が女の声で次々にかかる。7か所で吊られた白い幕。緩んでる。〈あなたと会ったその日から恋の奴隷になりました〉幕の後ろに広がるのは、白く塗られた壁で、キルティングのようなランダムなふくらみを…

渋谷TOHO 『メアリと魔女の花』

『君の名は』があんなに当たったのは、6年前のあの地震と津波の傷を、語りなおして慰め、なだめ和らげてくれたからだ。大きな天災に遭ったあのトラウマと同じように、原発事故のこと、原子爆弾のことも、日本に住む人々の深い傷になっている。あの時、爆発さ…

明治座 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

幕末、横浜の港崎遊郭岩亀楼。病に伏せる亀遊花魁(中島亜梨沙)の世話をやく芸者お園(大地真央)。亀遊はアメリカ人イルウス(横内正)に気に入られてしまい、思う人にも裏切られたと思って剃刀で自害する。それがいつのまにか、立派な辞世の歌を作って死…

彩の国さいたま芸術劇場 蜷川幸雄一周忌追悼公演 『NINAGAWA・マクベス』

劇場を入った途端、巨大な仏壇の白い格子の引き戸(閉じている)が目に入り、「きゃー」という。2015年の公演を観ているのに、胸がときめく。真ん中にその引き戸、両側に舞台端までいっぱいの、金色の扉金具を飾った大きな黒い木の折り戸が一組ずつ、その上…

新国立劇場小劇場 JAPAN MEETS...―現代劇の系譜をひもとく―Ⅻ『怒りをこめてふり返れ』

遠い奥の扉の向こうに白い光が射し、手前に向かって、大きくしっかりと遠近法で作られた屋根裏部屋。横に並列に見るのではなく、縦に、扉から戸棚、台所、ダイニング、居間が仕切りなく見通せる斬新な配置だ。屋根裏自体が、差し掛け部屋のように三角形をし…

東京芸術劇場 シアターウェスト 『OTHER DESERT CITIES アザー・デザート・シティーズ』

舞台は上半分がスクリーンで閉じられ、背板を抜いた棚にも見える枠が、4つほど重ねられて塔のようになり、中にいかつい本が、覗き込むキャビネット照明の厳しい明りにさらされている。上手奥のホリゾントには禍々しい強い影が出ているが、中央に少し離れてお…

世田谷パブリックシアター 世田谷区制85周年 『子午線の祀り』

車の免許を取ると、私どもの田舎では(と、突然司馬遼太郎みたいだが)、関門海峡のあたりへドライブに行くというのが相場となっていて、壇ノ浦の、道の間際まで海のせり出している急カーブに差し掛かると、「出るよ平家の幽霊」「きゃー」と、必ず言ってい…

シアターコクーン CUBE 20th presents 音楽劇『魔都夜曲』

7月19日、藤木直人さんお誕生日おめでとうございます。 藤木直人が今日45歳だと知って本当に驚いた。30代にしか見えないもん。世の中が求めている藤木直人とは、ハンサムな知性派であり、その要求に彼も、よく応えてきたのだと思う。 今日の役はいつもの藤木…

新宿シネマカリテ 『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』

古びたエレベーターのB3F表示が光り、今しも降下してきたところだ。扉の中から現れた青い制服の警備員が、異変を感じて耳の横に懐中電灯をかざす。フロアの夥しい血、肉片、停まっていた軽トラックの中を見ると、運転席の男が死んでいる。「!」カメラは死ん…

天王洲銀河劇場 『遠い夏のゴッホ』

「胸が大きくなりませんように、これ以上おとなになりませんように」と、毎晩うつ伏せで寝ていた子供だったので、惑星ピスタチオの『熱闘!飛龍小学校』を観た時は、むっとしていた。大きくなる子が悪者。そういう扱い?だって成長って、みんなに降りかかる…

ムジカーザ 『第九回 上原落語会 夜の部』林家彦いち 音楽ゲスト ユザーン(タブラ)

開場を待つ列に並ぶと、前にいる女の人たちの首が皆細くて白い。あの、ごめんね、落語会的には今日はずいぶんと若い人たちが来ている。 キーンと冷えた会場で、ひざ掛けを配る係の人が、すまなそうに、「もうなくなってしまったんです」という。いいのいいの…

新橋演舞場 七月名作喜劇公演 『お江戸みやげ』『紺屋と高尾』

『お江戸みやげ』 「しわがよる、ほくろができる、腰曲がる、頭ははげる、髭白くなる」って、江戸時代のお坊さんが年寄りのこと言ってて、その他に、「さびしがる」とか「くどくなる、気短になる、愚痴になる」とかいろいろあるんだけど、今自分が着実にその…

熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第四弾 フルボディミステリー 『消えた目撃者と悩ましい遺産』

熱海五郎一座っていうのは、伊東四朗のやってきたような(三宅裕司と伊東四朗の白熱した懐メロ合戦をふと思い出す)、東京の軽演劇を受け継ぐ公演なんだって。 夜の住宅街で痴漢事件が起きる。目撃したのはおばあさんたちだ。観客の目から見て、明らかに別の…

中村橋之助改め八代目中村芝翫襲名披露 六月博多座大歌舞伎        (2017)

はしのすけふくのすけうたのすけ、口の中で何度も唱えながら、開演を待ってる。五分前、青白赤のモダンな祝い幕が上手に消え、黒と緑と柿色の定式幕がそれに変わる。橋之助さんには3人も男の子がいるんだねえと思いながら待っている。はしのすけふくのすけう…

ブルーノート東京 ビル・フリゼール

白黒のエレキギター(テレキャスターというんだって)を抱えたビル・フリゼールとメンバーが舞台に上がる。拍手。 ビル・フリゼールが、「Thank You」という。静かな声だ。そしてルディ・ロイストン(ドラムス)、トーマス・モーガン(ベース)、ぺトラ・ヘ…

FUKAIPRODUCE 羽衣 第21回 『愛死に』

煉瓦の壁だ。上手の壁、下手の壁がハの字に置かれ、真ん中奥にも煉瓦のかきわりの壁がある。下手に窓のかきわりがあるが、本当に穿たれているのは上手の二階の四角い窓で、小さいバルコニーがついている。ロミオとジュリエットだね。それはとても古い話らし…