名取事務所公演 別役実連続上演シリーズ第8作目 別役実書下ろし作品 『――注文の多い料理昇降機――〈ああ、それなのに、それなのに〉』

舞台上空に、瞳孔のような星雲のような月のようなドーナツ型の鏡が吊るされている。舞台の表面は砂で覆われ、中央のタイルを侵食しつつある。電信柱は傾ぎ、錆び色のバス停は折れて、ベンチの背板はない。 世界はもう終わったんだね。そして破れたんだね。そ…

赤坂ACTシアター ダイワハウスpresents  ミュージカル 『生きる』

今はもう『七人の侍』を作れる時代じゃないんだ、と、90年代の初めごろ、黒澤がやや憤然と言っていたような気がする。それはこのミュージカル『生きる』の冒頭で、市役所の人がさっと膝を上げたときの、そのひざ下の長さを見ただけでわかる。戦前生まれと現…

池袋芸術劇場シアターイースト RooTS Series 『書を捨てよ町へ出よう』 寺山没後35年記念

気が重い夜、座席に向かって息を吐き、くるっと振り返って舞台を見る、とたんに胸が広々として気持ちがあがる。上手奥のスクリーンに『書を捨てよ町へ出よう』と凝った文字で書いてあり、下手スクリーンには空色のウサギの模様(確かにあれはミナペルホネン…

劇団民藝 『時を接ぐ』 (岸富美子・石井妙子『満映とわたし』〈文藝春秋刊〉より)

どうする民藝! どうした丹野郁弓! どうなってる黒川陽子! …と、縺れてなかなかほどけない焦燥感でいっぱいになって帰ってきた。まず、私が「若いほう」に数えられる客席がいかん。幅広いおきゃくさんに来てもらわないと。たまに若い人みても「関係者の孫…

ふくふくや第19回公演 『ウソのホント ―真実なんてクソくらえ!―』

自分が好き。自己肯定感ともいうけれど、山野海の「自分が好き」は人よりちょっと分量が多い。それが芝居を「お姫様(自分)の芝居」にしてしまいそうになる。いつも、(いい役で嬉しい)と見えるのだ。確かに以前観た時より抑制はきいている、だが、今回、…

渋谷TOHO 『プーと大人になった僕』

「おやすみのおいのり」(クリストファー・ロビンがおいのりをする)という詩の朗読レコードを、いじめっ子たちは繰り返し繰り返し、クリストファー・ロビンに聴かせた。その「面白さがすりきれて」しまうと、彼らはレコードをクリストファー・ロビンに進呈…

渋谷TOHO 『万引き家族』

この映画って、「フリーハンド」だなー。 定規やコンパスを使って作られた映画じゃない、まっすぐに引いたつもりの線でも少し曲がり、随時紙の凹凸を拾って太くなり、質感が出てしまう。「家族」「絆」ときれいに整理された「概念」を、「万引き家族」の、時…

オンワードpresents新感線☆RS 『メタルマクベス disc2』

「お父さんの芝居観たことあります。」お父さん世代でーす。 前から3列目、あとからあとから座る客の顔がみな、思わず、そして必ずほころんでいる舞台の近さ。 真夏の『メタルマクベスdisc1』の次は、この『disc2』、主人公のランダムスターを歌舞伎俳優の尾…

劇団時間制作第十七回公演 『白紙の目次』

まず、劇場の大きさに比して、声が大きすぎる。頑張ろうという気持ちが声に出てしまっている。頑張る気持ちは集中力に使おう。チラシにあらすじが書いてあるが、それが面白そうでなく、「テーマは『依存』。」ときちんと説明されていて、そんなことは観るほ…

東京富士美術館 『長くつ下のピッピの世界展  リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち 』

「『ピッピ』シリーズが人生を変えた、と語ってくれた人も大勢います。でもね、最高のお賞めの言葉は、あるときだれとも知れないご婦人が紙きれに書いてくれたことづてです。『暗鬱だった子ども時代を、輝かせてくださって、ありがとうございました』。これ…

る・ばる Vol.24 さよなら身終い公演 『蜜柑とユウウツ ――茨木のり子異聞―― 』

木造モルタルカンカンアパートに住んでた頃、夜中だったか、早朝だったか、友達がぽつりと言ったのだ、「私あんなに芝居が好きじゃないもん」。「あんなに」のところにる・ばるのどなたかの名前が入り、それはもう大昔のことだけど、今回劇場に来て茨木のり…

池袋芸術劇場 『贋作 桜の森の満開の下  坂口安吾作品集より』

「芸術の神は嫉妬深い」天才画家は机にそう書いていたが、毎晩紅燈の巷に出掛け、早くに死んだ。 坂口安吾と矢田津世子は、背中にその芸術の神をおのおの背負ったまま向かい合い、恋愛は5年かけて1ミリくらいしか進展せずに終わった。安吾はいい作品をたく…

明治座 『劇団創立80周年 梅沢富美男劇団特別公演』

「プレバトのおじさん」とかおもっていてごめんなさい。梅沢富美男凄かった。 二枚目で踊るとき、美女で登場するとき、 (なんなのこの人なんなのこの人なんなのこの人)という言葉が頭をくるくる回り、ちょっと思考停止した。 あの脱力、っていうかリラック…

新橋演舞場 『オセロ―』

黒塗り?オセロー(中村芝翫)はムーア人で、一幕でさんざん見下されていて、二幕目、三幕目にそれが毒が回るように効いてくるというつくり。ということは、黒く塗らなくていいんじゃないの?一幕の蔑視が、とても鋭くよくできているし、なにより、オセロー…

彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール 『大塚直哉レクチャーコンサート J.S.バッハ⦅平均律クラヴィーア⦆の魅力 ~ポジティフ・オルガンvsチェンバロ その1~』

月~金朝6時からのNHKFM『古楽の楽しみ』を聴いてる以外、私とチェンバロの接点はない。 ――と、思っていたけど、よくよく思い返したら、一点だけありました。ホミリー(借り暮らしの)が、屋敷の客間のハープシコード(チェンバロのことね)のうしろの羽目…

ハイバイ15周年記念同時上演 『て』

「あれどうしたの、顔すっきりしているよ」昨日『夫婦』を見て帰宅すると、家族がそんなこと言ったのだ。すっきりしたーめっちゃすっきりした、自分の中の一部が成仏したみたいにすっきりした。今日はその前段、ばらばらになっている荒んだ家族が、もう一度…

ハイバイ15周年記念同時上演 『夫婦』

幸福な家庭は似通っているが、威張ってるお父さんというものは、もっと似通っている。 と、驚嘆の念でいっぱいになって家へ帰ってきた。どうしてあの人たちってローソクで勉強した街灯の下で勉強したって言いたがるのかしらねー。立派な仕事をしている/嫌な…

ブルーノート東京 矢野顕子トリオ featuring ウィル・リー&クリス・パーカー

オープントゥの靴を履いている女の人は、青山の街にも、ブルーノート東京にも、もうほとんどいない。8月下旬。秋だね。初めて一人で来たブルーノート、割といっぱいいっぱいです。 スタッフがピアノの前に譜(歌詞のようにも見えた)を置く。ピアノの中央の…

劇団青年座 第233回公演 『3組の夫婦による ぼたん雪が舞うとき』

原発から30㎞離れた町、地震で原発が壊れ、コンクリートの建物の中にいるようにという指示が出ている。夫(横堀悦夫)と妻(津田真澄)はほかに選択肢もないらしく、木造モルタル築30年の自宅の、いちばん奥まった子供部屋に避難する。夫は片耳が遠く、妻は…

渋谷クラブクアトロ 『FUJI ROCK AFTER PARTY ホットハウスフラワーズ special guest ウェスタン・キャラヴァン』

17年ぶりの来日。家族がよく聴いていて、それで私の分もチケットを取ってくれたわけだが、予習が足りなくてちょっとあおざめているのである。来たことあるって言われても全く覚えのない会場クラブクアトロ、真ん中にマイクが3本立ててあり、その両脇のスタン…

カクシンハンPOCKET08 『冬物語 ~現実と夢幻のデッド・ヒート~』

芝居を予約してチケットが郵送されてきた。チケットだけじゃない。「サイリウム」が入ってる。サイリウム=化学反応で蛍光色を発する器具の通称。psyllium。送られてきたのは片手を広げた長さのスティックであった。突然襲う黒い不安。①わすれる②時ならぬと…

オンワードpresents 新感線☆RS  『メタルマクベス disc 1』

ディストピア。2218年、廃墟と化した世界、そこにランダムスター(橋本さとし)と呼ばれる男がいる。彼はレスポール王(西岡徳馬)の配下、敵を蹴散らして手柄をたてる。バイクで道を急ぐランダムスターとエクスプローラー(橋本じゅん)の前に三人の魔…

帝国劇場 『ナイツ・テイル 騎士物語』

パンフレット2800円、見本を見てから、買うかどうするか決められるようになっている。ストレートプレイだと、宣伝チラシをもらう時キャスト表もくれるけど、そんなのはないんだね。 この『ナイツ・テール』というミュージカルは、シェイクスピアとジョン・フ…

シアタークリエ 『大人のけんかが終わるまで』

ヴィヴァルディがストーンズに割って入る。このヴィヴァルディが、岩からしみだしてるように悲しい。哀切。 愛人ボリス(北村有起哉)の車で素敵な高級レストランに出かけることになったアンドレア(鈴木京香)は、怒っている。「外で吸えよ」とボリスに言わ…

シネ・リーブル池袋 『エンジェルス・イン・アメリカ ~国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア~ 《第一部》至福千年紀が近づく《第二部》ペレストロイカ

8時間(休憩こみ)。全く退屈しなかった。緊密なストーリー、笑える台詞、そして、考え抜かれた装置。「部屋」の枠取りにカラーの蛍光色の細い明かりが使われ、それは舞台の高さに比してとても低く見える。部屋は互い違いにまわるように組み合い、全体が奥へ…

東京芸術劇場 プレイハウス 『BOAT』

すだく虫の音。赤い緞帳が閉じられ、暗く襞を見せている。風向計が大きな投光器(上手の流木の間にある)に照らされて黒い影を襞の上に落とし、真ん中に青いボートが、横向きに丸太のコロに乗り上げているのが見える。虫の音だと思っているうち、途中でふと…

ポレポレ東中野 『乱世備忘 僕らの雨傘運動』

香港の普通選挙を求める雨傘運動について、つめたーい気持ちでいるのである。それはかつての若い自分を見ている気分だ。熱くなりやすく善悪の判断がはっきりしていて、しかもそれを口に出し、行動にすぐ移す。おかあさんに行っちゃいけませんと言われたら決…

ギャラリースペースしあん 『おちないリンゴ×さんらん公演 夏しばい』

坪内逍遥の婿さんが、「室内劇」というのに凝っていて、自分の屋敷で芝居をやっていた。というのを思い出す、築六十年の日本家屋での公演。飯塚友一郎(お婿さん)邸よりは狭いんだろうけど、十二畳(?)程の座敷に客席の雛壇が4段くらい組まれ、後ろの大型…

世田谷パブリックシアター 『マクガワン・トリロジー』

なにしてくれてんねん、と関西弁ネイティブのようにつぶやきながら、英語の戯曲をロビーで購入する。英語かい。 『マクガワン・トリロジー』の第一部「狂気のダンス」は本当に暴力的で(ステレオタイプではある)、自分が撃たれるような気がする。やだな。バ…

松竹新喜劇 劇団創立70周年記念公演 『人生双六』『峠の茶屋は大騒ぎ!!』

懐かしい昭和30年代風の、ほんわかしている音楽。たちまち目の裏にホンダのカブやらオート三輪が走り出し、つっかけの、買い物籠を提げた女たちが行きかう。なつかしー。 緞帳に青い明りがあたり、現れた舞台に青く雪が降っている。若い女が二人(前田絵美、…