パルコ劇場『其礼成心中』

曾根崎心中、1703(元禄16)年初演。近松門左衛門の代表作だ。本当にあった大坂曾根崎の心中事件に材を取り、天満屋の遊女お初と、醤油屋平野屋の手代徳兵衛が、恋の成就を心中に求める悲劇の人形浄瑠璃である。

 「この世の名残。夜も名残。死ににゆく身をたとふれば 仇しが原の道の霜。一足づつに消えてゆく。夢の夢こそ あはれなれ。」という詞章が特に知られていて、この『其礼成心中』の中にも、二回も登場する。

 さて、『曾根崎心中』があまりに評判を呼んだために、曾根崎の地ではそれに触発された心中が後を絶たない。天神の森のはずれに店を構える饅頭屋の鶴屋半兵衛は、心中が大流行になってから商売が上がったりである。それらしいカップルを見かけると声をかけ、心中の防止に努めている。半兵衛は女房おかつとはかり、心中を利用した新商売を始める。しかし、その新商売も長く続かない。『心中天網島』が発表され、心中の中心地が、曾根崎から網島に移ってしまうのだ。憤懣やるかたない半兵衛は近松門左衛門を訪ねて、また曾根崎を舞台にした心中ものを書いてくれるように頼む。近松の返事は、芝居にしたくなるような、「それなりの」心中があれば書くだろうというものだった。それなりの心中。ピンチの半兵衛はついに思いつく。

 人形がかわいい。特に油屋の一人娘おせんの赤い帯がきれいでよく映えていた。さっきまでしっとりと死出の道行を演じていた人形たちが、スラップスティックな動きに転じると、パンチとジュディ風の原始的な指人形のように感じられ残念だった。だが、心中ものの主人公たちが舞台中央に出てきて最期を迎えるのに対し、突如優美に中央から奥へ消える「それなりの道行」は成功していたと思う。