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パルコ劇場『iSAMU』

彫刻家でデザイナーのイサム・ノグチ窪塚洋介)が、飛行機に乗ってアメリカから日本に来ようとしている。イサムは月を見ている。その引力のことを話す。

 来日したイサムを人々はスター山口淑子(美波)と結婚した男としてみる。彼は広島の原爆記念公園をデザインすることが決まっている。三つに区切られた舞台の下手に、イサムの母レオニー(ジュリー・ドレフュス)と幼いイサム(池袋遥輝)がいて、レオニーがイサムに算数を教える。ゼロは何にも影響されない数字でいながら、すべてに影響を与えるという。上手寄りには現代のニューヨークで激しく働くトレーダーのサトミ(小島聖)がいる。サトミの父は911でなくなったらしい。彼女は子供を持つかどうか迷っている。

 イサムの過去、現在、未来、三つのストーリーが互い違いに進んでゆく。グローバルである。ベッドで寝ているサトミの景色の上に、広島のがれきの映像が重なるところでショックを受けた。ニューヨークや、戦前の日本や、終戦後間もない爆心地と、時間的空間的に繋がりのある自分、という視点を持たないと、芝居全体がわかりにくくなってしまう。なかなか甘えさせてくれない母がイサムの庭を誉め、サトミが笑いながらイサムの作品の評をするとき、ばらばらだった三つが次第に近づき、一つの柔らかな曲線の上に載ったように感じられる。それはきっと月が大好きだったイサムの、月から地球を俯瞰する視点なのだ。空間的広がりをこの芝居から印象としてうけとるかどうかが最も重要なポイントだ。冒頭の飛行機の座席のシーンはなんだか雑然としている。全体に、少し弱いと思う。

 イサムのひどいお父さん(評伝参照!)が登場しないと思ったら、カーテンコールで大森博史がインバネスを着ているのであった。すると漁師や被爆した老人は、イサムの父だったのだろうか。