世田谷パブリックシアター『ジャンヌ』

サッカーワールドカップフランスチームが、ナウシカにかしずいている。ジャンヌ・ダルクのイメージって、こんな感じだ。

 フランスの小さな村で生まれた農夫の娘ジャンヌ(笹本玲奈)は、14歳のころから神の声を聞くようになる。その声は、イギリスに占領されているフランスを取り戻すように言った。ジャンヌは地元のボードリクール領主ロベール(中嶋しゅう)を説得し、王位継承者、シャルル7世(浅野雅博)との面会を取り付ける。シャルル7世を鼓舞し、前線へ向かうジャンヌ。オルレアンを解放することに成功する。彼女が名高くなるにつれ、それを歓迎しない人々がくっきりと姿を現す。一人目は聖職者のコーション(村井國夫)だ。ジャンヌが神の声を代弁するというのなら、神と人との仲介をつかさどる教会は立場がなくなってしまう。二人目はイギリス貴族のウォリック(今井朋彦)、ジャンヌが土地は神のものだというために、王がそれを一元的に神から授かるならば、彼らもまた力が弱くなる。彼らはイギリス方のテントの下で、ジャンヌがいかに邪魔であるかを語り合う。シャルル7世は戴冠式を終え、一息つきたくなっているが、ジャンヌはそれを許さない。パリを奪還しようと躍起になる。ここで彼女と周囲の人々との齟齬がはっきりしてくる。彼女が敵の手に落ちても、誰も取戻しには来ないだろう。それがこの後のひとりぼっちの審問の場へとなだらかにつながっていく。

奇跡を、どうとらえるか。この話はその変奏曲のようである。ジャンヌのシンプルな受け入れを主題として、人により、立場により、さまざまに奏でられる。ジャンヌの死後の場を設けることで、それがさらにはっきりする。しかし、誰一人、奇跡を(ジャンヌを)身近に受け入れるものはない。身の丈以上の出来事を引き受けることができないのだ。だからジャンヌは孤独である。死ぬ前と同じく。