スティングが流れたら、ちょっと驚く。
――スティングじゃないか!どうしたピーター・バラカン!嫌いなのに!
ピーター・バラカンのラジオ番組では、ロック、ブルーズ(「ス」じゃない)、ファンキ(「ファンキー」じゃない)なソウル、あまり人が知らない民族音楽がかかる。前衛音楽もかかる。
ラジオはいつでも売れてる曲と売りたい曲を流すものなのに、これってどうなってるんだ。だいたい、好き嫌いがこんだけはっきりしてて、どうやっておとなになってこれたのか。と思っていたけど、このたび、ピーター・バラカンが実際どうやってきたかを話す本が文庫で出た。
子供のころの、シャドウズのレコードに始まって、チャック・ベリーやビートルズ、DJのジョン・ピール、フランク・ザパ(ザッパのこと)、マーヴィン・ゲイ、たくさんの音楽のそれぞれの印象と感想、その時自分が何をしていて、周りの雰囲気はどうだったか、イギリスの、ごく普通の、音楽を聴くのに夢中な少年の日々が回想される。この回想は同時に、ロックやソウル音楽がどうなっていったか、どんなつながりを持っているかという歴史の地図にもなっている。11歳の弟が、ヤードバーズにオリジナル曲を持ち込もうとする話が、おもしろかったなあ。
ピーター少年は音楽を聴くことで耳が肥えてくる。厳しい基準で好き、嫌いを判断し、それに照らしてつまらないバンドのライブを抜けて帰ったりする。でもそれだけじゃない。
たぶん、レコード店で働いて、レコードを売ることを通して、自分の嫌いな種類の音楽を、好きな人がいるというのがほんとうに「わかった」んだと思う。たいていの人なら音楽は好き嫌いで終わりだけど、この、好き嫌いを超えた「理解する力」が彼をこんなに遠くまで運んできたのだね。そしてその力が、ごくごくまれに、番組でスティングをかけさせるのかもしれません。