NODA・MAP『MIWA』

 舞台の背後と手前に焦点を結ぶ不思議な屋台セットの前に、白と黒の二脚の椅子があって、舞台が一瞬暗くなると、明るくなったときにはもう、芝居がにぎやかに始まっている。芝居のカットインだ。この芝居の全ての速度が、ここに凝縮されていると思うくらいの素早さだった。

 しばらくして気づく。いつもより、速度がゆっくりだ。いつもより、謎々が少ない。目くらましもない。

 なぜなら、美輪明宏本人が、すでに大きな謎。美輪明宏の存在そのものが、眩暈をさそう。美輪明宏は、昭和だ。花街に生まれ、三人の母を持ち、ハイカラに美しく成長し、原爆に遭う。MIWAの半生はショーに仕組まれ、アメリカ兵の視線にさらされている。

 MIWAの体を、男でもあり女でもあるアンドロギュヌス=安藤牛乳の古田新太と、男でも女でもない少年、宮沢りえが分け合っている。おじさんと美少年。グロテスクで、ちょっとおかしく、成功している。体の中でせめぎ合う二心同体のふたりは、うまくやっているわけではない。化け物扱いされることを心から厭うMIWA。いつでも消えてやるとうそぶく安藤牛乳。しかし、最後には、MIWAは男であり、同時に女であることを引き受ける。鏡の前で濃くメーキャップし、黄色のかつらをかぶるMIWA。隣の椅子には誰も座っていない。誰も座らせない。それは誰の椅子なのか。

 与える愛、受ける愛、与えていると思う愛、受けていると思い込む愛、いろんな愛がある。この芝居のなかでも、愛はさまざまである。なさぬ仲の息子をかわいがる母、ふと、好きになってしまう東京からの転校生、譲られる恋人。愛の座だというのは簡単だが、『MIWA』の愛は、本当にたいへんだった。