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東急シアターオーブ『鉈切り丸』

 人の流れに逆らい、壁に張り付いて出てゆく人をやり過ごしながら、劇場の扉にたどり着いた。今しも客が全員退出し、ドアをロックするところ。入って近くから舞台が見たかった。忙しそうな係員に、戸の隙間からやっと一言聞く。

 「あれ、竹?」

 舞台に木々が丈高く茂り、後景と前景を分けたり、現れたり消えたりする。私の席からは、それが何の木なのか、判然とせず。係員さんも知っているわけがない。そんな席から見ました。

 源範頼(森田剛)、源義朝を父に、身分低い女を母に生まれた頼朝(生瀬勝久)の弟。片足が悪く、顔にあざ、背中にはこぶが盛り上がっている。この範頼が、讒言、殺人など、あくどい事を重ねながら歴史書とは違う異数の出世を遂げる。生まれながらに愛情に見放されている範頼を、建礼門院(麻美れい)の生霊は、「初めから失っているもの」と呼ぶ。お前は穴だ、初めから失っているものはその穴を埋めるだけで一生を過ごすといわれ、範頼は激しく言い返す。「我は負の穴。下れば下るほど登っていく。地獄こそ俺の極楽だ。」かっこいい。が、その穴を裏付けるように、範頼の女の扱いは、ひどい。途中でその心理についていけなくなるほどだ。セリフに何度も鳶が出てくる。範頼の上昇志向と、ゆがんだ憧れがこもっている。

 観客はマイクを介してセリフを聴く。最初は違和感で聞き取りづらかったが、段々になれる。そして思う、これは何か新しい形式のもので、いままでの自分の知っていた演劇とは違っている。客席のキャパも、生の素晴らしい演奏も、自分の知っていた演劇と少しずれている。それが気持ち悪いのか、心地よくなるのか、今の私にはまだわからない。

 武蔵坊弁慶(千葉哲也)の薙刀の扱いがきれいだった。ふわっと空を切るところが眼に残る。