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パルコ劇場『ザ・スーツ』

 オレンジ色のカーペットの上に、色とりどりの椅子が並ぶ。正面向いている椅子の色は黄色(と、きみどり)、その上に男物のスーツが乗せられている。椅子はあちこちに置かれているけど、向かい合ってシンメトリーになっているのは、カーペットの端と端の一対だけ――赤と、青。

 後ろの黒い幕にあたる照明は青い。その光が、まるで冷気みたいに青い椅子からも放射しているような気がしてくる。背の高い四隅のスタンド照明(?)の明るさが、舞台が青く染まるのを妨げている。

 フィレモン(イワノ・ジェレミア)とマチルダ(ノンランラ・ケズワ)の夫婦は南アフリカのソフィアタウンという町に住んでいた。1950年代、アパルトヘイトで黒人居住区に定められているらしいこの町は、きたなく、貧しい。愛する美しい妻を持つフィレモンに、ある日友人(ジョーダン・バルボア)が告げる。

 ――お前の留守に、通ってくる若い男がいるぞ。

 形相が一変するフィレモン。彼は妻を罰する。寝室に残された恋人のスーツを、客人としてもてなすように命じるのだ。と書くと浮気を断罪する芝居みたいだが、そうじゃなかった。マチルダは、考える。考えることで、罪を許されようとする。彼女は歌を歌う。背骨に沿って、円筒形に膨らむ胸郭から、信じられないようなすばらしい音が出るって感じ。マチルダのそれと知らず抑圧された心、秘密の恋の喜び、あたらしい自己の発見などが、歌に表われていた。オレンジは生命の色、社会に参加して喜びを得るマチルダは、生き生きした濃いオレンジ色のドレスを着ている。一方、フィレモンは苦しむ。苦しみながら更なる苦しみを、マチルダに加えることを選んでしまう。その二人を、南アフリカの残酷な青い抑圧が蔽う。

いままでいろんな歌を聴いてきたけど、うたってこんな風に聴きたかったんだと思わされた。おそろしく歌がうまいのにマイク通さない。ミュートのついたトランペットとギターだけの伴奏。こころの震えの伝わる歌だった。