シアターコクーン 『もっと泣いてよフラッパー』

 さがっている緞帳が、二色刷りの厚紙のように見える。キャラメルの箱で作る小さなバッグを思い出す。セットは、綺麗なお菓子の箱で、ていねいに作った人形劇場みたいだった。

 そこに登場するのはお天気サラ(秋山菜津子)、青い煙のキリー(りょう)、月影ギナン(太田緑ロランス)の三人の踊り子。派手な揃いのコートを着ている。白、青、赤のそれぞれのコートの色がしっとりと落ち着いていて、洗練されている。ずっと見ていたいような色合いだ。華やかなのに渋い。三人ともそんな芝居をしていた。

 再演を見てる。「もっと泣いてよフラッパー」という一節のみ記憶にあり、そこだけ歌えもする。松たか子の演じるトランク・ジルは、あっさりしていて上品だ。ネズミの街でお話をして聞かせるシーンなど、とぼけた抒情がある。ところどころ、吉田日出子を意識しているのかなあと思ったのは、私の記憶の中から、影のように吉田日出子が顔を出していたのかもしれず、どちらだかわからないけど、意識する必要はないとはっきり言える。クレバーで声の美しいジルだった。最後にクリンチ・チャーリー(大東駿介)の行方を聞かれて、かすかに間を置き、「知らないわ」と笑顔で答えるところは、あっさりしすぎていたかもしれない。

 私が一番好きな登場人物は、歌のうまい正義の人ベンジャミン(石丸幹二)を振って、ギャングのアスピリン松尾スズキ)を好きになるフラポー(鈴木蘭々)お嬢さんである。かわいい。童話みたいでいい役だなあと思う。自分のセリフを、丹念に耳で拾いながら喋ったら、さらにいい役になるんじゃないかなあ。コミ国皇太子(片岡亀蔵)は、遠慮がちに見えた。もっとがんがん行きましょう。