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homspun(ホームスパン)刊  『TSUTSUI'S STANDARD――筒井さんの子ども服――』

 表紙が映画みたいだ。クロス装のざらりとした手触り、空色に濃いピンクの小花模様がひろがり、一番下の白いレースと、それを縫い付けたミシン目で、服の一部だとわかる。

 服の左下からぼんやり明かりが当たって、表紙の半分がほの明るい。中央に小さく、控えめな文字で『TSUTSUI’S STANDARD』と白く抜かれ、そこを注視していると、背景からゆっくりとうすい、古い、茶色のしみが浮き上がって見えてくる。

 60年代の後半から、80年代にかけて、一人の女性がわが子のために服をつくっていた。高度成長のそのころ、女の人の多くは主婦で、子供の服を手作りする人が多かった。その人たちとこの本の筒井喜久恵さんは、全く同じであり、また、全然違っている。この本には、筒井さんの作った百点近くの服の写真がある。

 たとえば、ケープ。ヴィリジアングリーンのあたたかそうな布地に、フード、同色のビー玉みたいなボタン、裾にかわいい白のポンポンがずらりとついている。テキストブックの洋裁になれた実用一点張りの主婦なら、チェックとかベージュ、紺の裏地をつけると思う。筒井さんはそうではない。あざやかな、セルリアンブルーの裏にする。誰とも違う。どこにもないものだ。筒井さんは人と違うことを恐れない。それが自分だから。

これは、愛するたった一人の、たった一つの個性に向けて作られたケープであり、つくり手の、だれとも重ならない、自分だけの感性を主張するケープだ。そして、物をつくりだすことの、原初的で繊細な喜びが籠められている。

 この本を見ていると、筒井さんがこのケープや、小さな鈴をたくさんつけた赤いワンピースを子供に着せ、ずんずん歩いていくところが眼に浮かぶ。かっこいい。

 

 

編集 homspun

取材・文 瀬高早紀子

写真 戎康友

 

2014、3月4日発行 4000円+税