パルコ劇場 『万獣こわい』

 苛立つ女。陽子(小池栄子)の声には、途切れることなく苛立ちがこもる。陽子は不倫の末に結婚した夫(生瀬勝久)と、カフェをオープンしようとしていた。生活が苦しい。彼女は子供を欲しがっているが、なかなか出来ない。

 夫の方は妻とフラットに受け答えしているように見えるのだが、ふとした拍子に声を荒げると、彼が相手に深く苛立たされていることが垣間見える。水面すれすれに投げた石のように、男の苛立ちは現れたりもぐったりする。

 見えないストレスを抱えて暮らす二人の店に、制服姿の少女トキヨ(夏帆)が助けを求めて飛び込んでくる。トキヨは監禁されていた。七年後、養女にもらわれ幸せになったはずのトキヨが、養父アヤセ(古田新太)とともに現れる。店で働くトキヨ。しかし、レジの金が三万円合わないことで、人間関係は醜く変貌してゆき、巻き込まれた誰もが自分の頭で事を考えないために、目も当てられない惨事が、次々に起こり続ける。

 芝居はかつてのトキヨの監禁事件と、陽子と夫が当事者となった事件の裁判を交えて進行する。コインが裏返るように鮮やかだ。終幕、夫の苛立ちがよく見えると、夫婦の関係性が裏返るように感じられるのではないだろうか。

途中、殺人・処理の場面を明るく歌うシーンは、『スウィーニー・トッド』の殺人の奇妙な祝祭感を思わせる。もう一息。

 ネズミの三銃士に腕があることは、十分以上にわかった。彼らでなければ、私たちの一部である現代の闇(それはたとえば口の中の暗がりに似ている)を真正面から題材にしたこの芝居に、客は呼べないだろう。次は、一年間かけて稽古する芝居などいいと思うがどうかなあ。最後にトキヨ役夏帆を、よくこの役を受けたと讃えたい。