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東京芸術劇場 『酒と涙とジキルとハイド』

 

 分厚い本を「ひらいた」ようなセット、本の「のど」の部分に階段、階段下は暗がり。地下室である。下手側に長テーブル、薄紫の液体と、透明の液体が、二本のフラスコに入れられ、沸いている。フラスコの沸きあがる音が、低く聴こえる。壁一面に棚、茶と白の薬壜がびっしりと小さく並び、遠くから見ると象形文字のようだ。

 イギリスビクトリア朝のある日。明日、一人の人間のキャラクターを善と悪とに分け、互いが互いに煩わされることがないようにする薬を発表しようとしているジキル博士(片岡愛之助)。しかし、実はその薬は完成していない。博士と助手プール(迫田孝也)は駆け出しの役者ビクター(藤井隆)を雇って、あたかも薬が効いたかのように見せかけようと計画する。ところが、博士の婚約者イヴ嬢(優香)の心の蓋が、ビクターのワイルドな芝居で持ち上がってしまったことから、話は予想外の方向へ展開する。

 激しく階段を上り下りし続ける役者たち、抑圧ってなんだろうなあと見ながら思ってみる。イヴが「本を置き忘れた」といったとたんにそれは「あれ」にきまってると当ててしまい、当ててしまったことでちょっとばつが悪い。このばつの悪さが抑圧だ。ついでに言えば何の本かばれた時点で死を選ぶくらいばつがわるいとおもうがどうだろう。本は身もふたもないくらいセックスを扱ったファンタジー小説『ファニー・ヒル』である。

 衝立の前で繰り広げられるワイルドとノーマルの演技対決は、エスカレートして方図がないほどだ。芝居のヴォリュームがあげられず、最後がいっぱいいっぱいになってしまう。惜しい。イヴは殻を破って自己解放する。冒頭シーンが少女のようにかわいく、よかった。