シアタートラム 戯曲リーディング 時代を築いた作家たち②ウージェーヌ・イヨネスコ

 イヨネス子。書いたらうっすら笑ってしまったが、アフタートークを聞いていて、イヨネスコはずいぶん遠い、昔の人になったのだなあと思った。女流写真家のイリナ・イヨネスコと間違われたりしている。ウージェーヌ・イヨネスコは男で、1909年ルーマニア生まれ、フランス人の母を持ち、フランスで不条理劇を書いた。

 今日のリーディング公演では処女作『禿の女歌手』(1950初演、中屋敷法仁演出)と、『椅子』(1952初演、ノゾエ征爾演出)が取り上げられた。

見知らぬ世界、見知らぬ自分。一つのセリフごとに更新されて、とらえがたい関係性、変容し続ける空間。『禿の女歌手』では、ある女のことを、「整った目鼻立ちだが、美人とは言いかねる。とても大柄で、頑丈な女だ。目鼻立ちは整っていないが、まれにみる美人と言えるだろう。」と、前のセリフをご破算にしながら説明する。まるで爆竹が破裂しながら進んでいくようだ。それはシーンについても同じで、夫婦がお互いを思い出せずに語り合い、徐々に夫婦であることを発見しても、その発見は最終的に誤りであることが告げられる。しまいにはことばそのものも分解され、語呂合わせの連続で破裂してゆく。もう一本の『椅子』は、空間に次々、椅子と架空の人々が詰め込まれ、ぎりぎりまで膨張して破裂する芝居だ。ノゾエ征爾の友人が、「やっぱりリーディングでイヨネスコは無理だね」などといったのは、この「破裂感」(たとえば語呂合わせのk音、s音が際立たない)と「膨張感」がもひとつぴりっとしないせいだろう。空間が埋まらなかったのである。

広岡由里子の老婆、女中は面白かった。皆、公演前日に二回通したきりとは思われないほどしっかり芝居していた。しかし、準備不足、指摘不足の読み間違いが目に付いたのがざんねんである。