読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

青山円形劇場 『赤鬼』

 

 開場し、客が席に着いていく間に、アンサンブル(竹内英明、傳川光留、寺内淳志)がすうっと現れ、舞台を通り抜ける。客席と舞台の空気をかきまぜている。円形舞台を土星の環のように通路が囲んで、半分は舞台より高く、半分は低い。うっすら波の音がして、環をアンサンブルのひとりが注意深く歩くと、海のそばの砂の土手が、その足の下にある、ように見える。キャストが登場し、ほんの少し躰を傾ける。松。たちまち浜が現出し、腕の下をくぐりぬけたり、足を組み替えたりすることで荒れた海がそこに生まれる。

 この浜に、「あの女」としか呼ばれない女(黒木華)がいる。女はちょっととろい兄とんび(柄本時生)と暮らしている。ある日、二人の家のそばに、言葉も様子も自分たちと違う「赤鬼」(小野寺修二)が流れ着く。相手を「鬼」と呼び、おそれていた二人だったが、何とか話が通じるようになった。女は、すこし生き生きしてくる。それに嫉妬する浜一番のうそつき水銀(玉置玲央)。水銀は讒言して浜の悪意をかきたて、女と赤鬼を引き離そうとするのだった。

 絶望、「あの女」と呼ばれる昨日があって今日があり、明日も明後日も変わりなく「あの女」と呼ばれ続ける日々のこと。逃れるすべもなく、理由もなく浜(共同体)の気分で指弾されること。まるで自分がそんな目に遭っているかのように舞台を見続ける。知らずに顔が歪んでいた。2004年の上演時、あの時は確かに海の向こうに一縷の輝きが見えた。時がたって十年後、この舞台では、「向こう」へとつづく広がりを感じることが難しい。「海」は見えるのに、先が見渡せない。そのせいで、とんびの最後のセリフがほんとうに身に迫る。前半、身振りの中にセリフが埋もれているように見えるが、後半の展開で拮抗し合うようになる。柄本時生の大げさでない「とろさ」がよかった。