夏木マリ 印象派NEO vol.2 『灰かぶりのシンデレラ』

 F列の23番、上手寄り。重低音が右の鎖骨に響く。舞台の上にDJ(BABY-T)がいて、それから察するにこれはクラブ音楽。音に耐える、のはやめて、こんな音楽をかけて踊る人たちがどこかにいるのだなあと思う。今年の帽子、今年の服を着たきれいな人たち。洗濯で縫い目がめだったりしていない裾がひらっとする。いいなあ。早くもシンデレラ気分。

 いつだったか、横浜にピナ・バウシュを観に行ったとき、私の前の列に夏木マリが座っていた、ことも考える。夏木マリは白い首筋をきりっと立てて、舞台に見入っていたっけなあ。しみじみ。

 と、いつの間にか舞台を手早く拭きながら、シンデレラ(西島千博)が登場している。シンデレラは快活で、働き者だ。持っていた布で座席の背中をくるりと撫で、観客の靴まで拭いてくれる。ダンサーらしい鍛えた体躯の持ち主なのに、かわいくて、かれん。しかし二人のコミカルなお姉さんたち(町田正明、城俊彦)にいじめられるとき、伸ばした足がはっとするほど決まっている。

 ダンサーが服を男女逆に着て、ショッピングカートに相手を乗せて出てくる。結婚を象徴しているのだろうか。魔法使いは出てこない、シンデレラの分身が彼女を助け、鬘(ロココ調の、素晴らしい出来なのだった)をつけなくても王子は見つけ出してくれる。シンデレラはカートの中から婉然と微笑む。そのカートには継母(夏木マリ)も乗って現れ、こちらは檻のように見える。いろんな王室の女王の写真が映し出され、幸せ不幸せのその物語を思った。二人は、同一人物の二つの顛末かもしれない。

 モダンダンス、バレエ、歌などが出てくるが、全てが「表現する」という目的に奉仕している。そこがピナ・バウシュの核心と同じだ。あの時夏木マリを打ったものの片鱗を、ちらりとのぞくことができる。