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シアターオーブ 『ウォーホース』

 耳がぴくぴく動く仔馬のパペットを、首、前脚、後部と、傍らに立つ三人の人形遣いが支えている。ひょろっとした頼りない脚。様子をうかがったり餌を食べたり、神経質に首を振ったり、人形遣いのことをすっかり忘れて馬を見る。歳月が過ぎた、とナレーションされる頃、頭の片隅で思う。じゃあこの馬大きくなるはずだよね。大きくなるはずだよねの「はず」まで考えたとき、

 どーん。

 圧倒的に大きな馬が登場。実際の馬より10パーセント大きいそうだ。半透明の胴体に、朱の線がぐるぐる走っていて、中に二人人が入っている。首を扱う人も入れて、仔馬と同じ三人遣いだ。足に関節が付き、自在に動く。鼻先にまわっている朱の線が、肌の下の血管や筋肉のように見え、近代建築の骨組みにも見える。

 少年アルバート(マイケル・ワイエット・コックス)を背中に乗せて、舞台を走る赤い馬の迫力。舞台中央から下手に消える一瞬のことなのに、眼に灼きついた。客席一周してほしいくらいだった。

 小説や映画の中で、何度も第一次大戦の断片に出会っている。例えば手押し車で運ばれる兵士の遺体。水のたまった塹壕、毒ガス兵器、シェルショック。これといった装置もないのに、観客は馬たちやアルバートとともに戦場の真ん中に放り込まれ、戦争の現実に直面する。突撃の前の緊迫、何の前触れもなく訪れる死。妻子のもとに帰りたいというシンプルな願いが踏みにじられる。逃げ場はない。現代の戦争の源流のような残酷さがここにあり、現代を形作る近代の影の大きさを見る。緊張の連続のあと訪れるラストシーンでは、泣いた。

 戦場のフランスの少女エミリーにさりげなくアジア系の女性(カーリン・チェン)が配役されている。他から指摘される前に、思い出さなければいけないことがあると思った。