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ナイロン100℃ 42nd SESSION 『社長吸血記』

 会社。

 「目先の利益だけ」「やってることがえげつなくて」いま、こうして字を書いている喫茶店の隣のテーブルで、OLが二人、会社の噂話をしている。タイムリー。好景気があり、不況があり、バブルが来て、パソコンが普及した。しかし会社は変わったか。確かに森繁久弥の社長シリーズについて考えながら劇場に行くと、びっくりする。会社の上に広がっていた青い空や、BG(OLのこと)が淹れてくれるうすみどりのお茶なんか影も形もない。乱雑な、諦めきったような汚い屋上、そこでお弁当を食べる社員たち。一見のどかに見える景色だが、彼らの心に渦巻く思いは、風に翻る紙テープみたいにくるっくるっと裏表を見せる。悪意が複写され、転写され、念写される。セリフを言いきった役者がなぜか不安そうに見えるのは、芝居を観る私の中で、不安感が高まっていくからか。会話がとても不条理で、笑えるが、どこに連れ去られるかわからない。

 一見いい人に見える道下(岩崎う大)が、さらにいい人に見える「良い探偵」(山内圭哉)をロッカーに押し込めて鍵を投げ捨てる時の、卑屈なような投げやりのような表情が、この芝居の基調となっていた。目先の利益と思考停止したえげつなさ。それに鈍感になっているとんでもない会社の社員たち。だがそれはほんとにとんでもないのか。人の集団のあるところ、「会社」というTシャツや、「家族」というTシャツを着こんだとき、このようなことが起こるのを、何度となく目撃してきたような気がした。

 「社員」に濃淡の設定がなされている。観終わって反芻する種類の面白さだ。マサヨ(峯村リエ)の取り乱したスローモーションがもの凄く巧くて、恐怖が倍増。鈴木杏の普通に見えるえげつなさがよかった。