竹内まりや  『 TRAD 』

  涙など見せない強気なあなたを

  そんなに悲しませた人は誰なの

 教室を忙しく飛び交うカセットテープ。なつかしいね。定番の失恋プレゼントだった。

 あれからずいぶん経った。久しぶりに竹内まりやを聴く。すこし緊張。だってわたしもう鎧とかヘッドギアとかでずいぶん着ぶくれしちゃってて、あの頃みたいにカンド―できるかどうかわからない。

 ipodから流れるくっきりした歌声。変わってないな。竹内まりやの声だ。いつでも変わらず地声でいることの難しさを痛感するこの頃、「変わってない」「つくってない」ことを凄いなと思うのだった。

 みどりいろのリボンが風になびくのを、じっと見ている気分。竹内まりやの立ち位置のあきらかな声にひっぱられて、こっちも「じぶん」の感触がはっきりしてくる。

 声の隅々までくっきりしていた歌が少し変わる。酔いに紛れて男に話しかける女の歌。酔っ払い加減が微妙。酔っぱらってて、酔っぱらってなく、軽い言葉にも取れるし、真剣ともいえる。大人っぽいさじ加減だ。目の前に男がいることはうれしく、伝わらない心はかなしい。「ウィスキーが、お好きでしょ」竹内まりやも歌ってたんだね。知らなかった。

 どの歌にも、「過ぎ去る」ということが入っている。そこが昔聴いていた時と違う。うれしい気持ち、かなしい気持ち、それはいずれは終わるものなのだ。その切なさがうまく歌われている。息の上に声が乗る、その分量が繊細にコントロールされていて、それが切なさを生む。すべてがおわる。うれしくてかなしい。そして、かなしくてうれしい。切なさには陰翳がある。一瞬に通り過ぎる雲の影?

 アルバムの最後はすべてを肯定して終わる。うーんそこまで達観できない。けど心の鎧の留め金は外れる。励まされる。

――そのうちわかるよ。

 そっと手を取ってそこにリボンの、秘密の伝言貰ったみたいな、と、ちょっとてのひらひらいてみるのだった。