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恵比寿ガーデンホール 『Live Magic』

 長く延べられた二本のバーに、いくつものコーヒードリッパーがかけ渡されている。その上にうつむいて熱湯をゆっくりそそぐスタッフは黒いTシャツを着て、合間に手早く紙コップを客に差し出す。

 Tシャツは皆おそろいで、Live Magic と書いてある。今日はLive Magicの日。サマソニなんかに比べれば、ちいさいちいさい屋内型ミュージックフェスティバルだ。入るなり、軽食コーナーで「ガンボ」を買って、たべる。ニューオーリンズのシチューみたいなもの、とろっとしていて、ソーセージやエビが入っていて、ごはんが添えられている。周囲を見回すと斜め上にむかう矢印と『キッズコーナー』『マッサージ』という張り紙。マッサージ?そういえば首凝ってるし。これ食べたらマッサージに行こう。皆思い思いの格好で、笑ったり食べたり、テラスでたばこ吸ったりしている。ジャークチキンが人気だな。と、目で確認しながら、簡易リクライニングチェアでマッサージ。楽。靴脱ぐのが楽。あー。もう、寝ちゃうかも。って、なにしに来た。今日は音楽聴きにきたんじゃなかったのか。

 「ドブロありますか。」こないだ楽器屋にドブロを見に行った。ギターの穴の開いているところに、銀色の共鳴板がついている。仮面みたいに見える。家で音楽を聴くとき、「これドブロ?」「これスチールギター?」「これマンドリン?」、何だか同じように聞こえてきちゃって、混乱の極致。楽器の違いなんて、深く考えたことなかったもん。神経質にジェリー・ダグラスの登場を待つ。

 スタンド襟の白いシャツにジレ、そして、ドブロをおなかの前に「水平」にセットしている。水平なのか。楽器を固定するため、首にかけたベルトの下に右前腕をくぐらせている。左手に何か、金属のスティックを持っていて、それで弦を押さえているみたい。右手で弦を弾く。

 滴るような音がする。それも水じゃない、溶けた封蝋みたいな音だ。スチールギターともハワイアンギターともマンドリンとも絶対間違わない。「Gone to Fortingall」を弾いたら、封蝋の上に印を押した、署名したような気がした。

 次にスタンリー・スミスの会場に入った。立錐の余地もなく、スタンリー・スミスも見えない。寂びた、いい声だ。ゆったりする。そしてCDとおなじ。いつでもおなじように歌えるのだ。それってすごいことでは。息をしに外へ出る。コーヒーとドーナツで休憩。コーヒーを買いながら、濱口祐自を聴く。アメージンググレース。贅沢だなあ。湯水のように音楽を浴びる。細野晴臣のバンドも聴く。のん気な感じ。旅の音楽師一行。バンドの背景に街の路地裏を想像したり、レードルがびっしり下がる巨大厨房を置いてみたり、琥珀色の窓と緑色の窓枠の渋い飲み屋を考えたりする。どこでも自然に音楽をやっていそうだ。アンコールしないでさらっと帰っていった。それも似合っていた。

 ふー、ここで晩御飯を食べる。会場の外に出られるのでビアホールで。8時半からジョン・クリアリー。でももう限界かも。一曲だけ聴いて帰ろ。

 するとギターの有無を言わさぬかっこいいフレーズ。帰れない。大きな音、きびしい、それしかない音がする。ドラムスも、ベースもだ。ジョン・クリアリーが歌い始めると、足のつまさきから音楽が侵入してくる感じがした。頭はそれとしらないのに、足は踊ってしまう。世界にはすごい人がいっぱいいる。いい音楽もたくさんある。と、いうことを教えられたり教えたりする、すてきな音楽イベントだった。