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M&Oplays produce 『水の戯れ』

 女の人の心の中には、たいてい二階建てくらいの、一軒の家があって、玄関と裏口と階段がついている。出入り口が一つきりの、マンションみたいに馬鹿な男たちは、女が二階でものを言っているのか、それとも裏口から姿を消してしまって見えないのか、見当もつかず、「わかんねーよ」といつも戸惑っているわけだ。

 この芝居のヒロイン明子(菊池亜希子)の心の中の家は、相当広い。お屋敷だ。部屋から部屋へ抜ける扉もあれば、小さなエレベーターもあり、庭へ出る両開きの戸口もあって、屋根裏もついている。そして何より、屋敷の奥深く、本人もあまり知らないようなところに、迷い込んだら出られない「落とし戸」があるのだ。

 それは、明子が美しいからそこにある。美しさの威力に、絶望しているからそこにある。

 北原テーラーの兄弟(光石研池田成志)、会社の上司森田(岩松了)、若いジュン君、皆が皆、明子に魅かれている。隙あらばと思っている。考えても疲れる状況だ。そして明子が、美しさの威力を絶望的に、気まぐれに行使することで、話はさらにややこしくなる。

 とても面白い芝居だった。明子はもっと堂々としていていいのだ。最初のうちは菜摘(根本宗子)の言葉にあまり細かく反応することはない。だってファム・ファタールなんだから。根本宗子、近藤公園、瑛蓮がしっかりと演劇っぽく芝居を支える。光石研と菊池亜希子の芝居は異質だが、二幕の会話の奇妙な間、空間が軋んで、ああ、こうして人は気まずくなっていくんだなと思わせるぎこちなさの表現がいい。池田成志のh音の目立つ不安定な発声は役作りなのか。青年団への留学をお勧めしてみる。菊池亜希子の持ち物がすてき。