シス・カンパニー公演 『鼬』

  闇を浴びる。舞台奥に一か所、かすかな明かりが見えるだけで、あとは真っ暗。客席の前方には、まるで闇が「射して」いるように感じられる。目を凝らすと、中央に太い柱と、その横に長持らしき大きな箱がある。気のせいか(気のせいだけど)、暗がりの中、柱や箱がときどきとくっとくっと搏動するようだ。おなかの中の動脈みたいに。

 東北の街道筋、由緒あるだるま屋は零落している。跡取りの萬三郎(高橋克実)は南洋にわたり、音沙汰がない。母のおかじ(白石加代子)は、借金のかたに家屋敷畳まで売り払い、馬小屋に越そうとしている。そこに、先代だるま屋の妹、おとり(鈴木京香)が帰ってきた。ぞろりとした身なりをして、金回りがいい。魂胆のあるおとりと、家を守る(その家はもうないのだが)おかじは激しい罵りあいを続けるのだった。

 おなかの中の動脈が、直(チョク)で、金とつながっている人々の話だ。その動脈はまた、「家」にも結び付いている。家をわがものにするということ、金への執着が生きているあかしなのだ。長持の中の、せまい、濃い暗闇に連れ去られたような気持になる。

 おとりが舞台奥から登場すると白い花が咲いたようだ。山影先生(山本龍二)に自分の管理人になってくれと頼むとき、おとりの右目は先生にこびているが、左目は笑わない。その表情は流れる水のようにくるくる変わる。おかじと家の権利のことを話し始めると、芝居は一騎打ちのように見えてくる。おとりの表情は、段々に動かなくなるが、ここはもっと止めていいと思う。白石加代子を屈服させるのは大変なことだ。江口のりこのおしま、飲んだくれだが何か悲しげでよかった。