青山円形劇場プロデュース 『夕空はれて ―よくかきくうきゃく―』

 円形の舞台に輪になって置かれた背もたれ付きの椅子とスツール。一つの椅子の上に白い花束がある。椅子取りゲームを予感する。目を上げると、舞台上方に小さな檻、手足を縮めた人ひとり入れるくらいのもので、わずかに扉があいている。その檻を囲んで、電燈を下げた電信柱が4本、中空に浮き、たわんだ電線でつながる。ベツヤク!思わずにっこりせずにいられない。電信柱はなんだか童話的だ。手をつないで踊っているように見える。かわいい。

 一人の男(男1=仲村トオル)が登場。セールスマンだ。彼は、男2(山崎一)と女1(犬山イヌコ)が猛獣を待っているのに出くわす。その猛獣がトラなのかライオンなのか、会話を交わすうちに男1は奇妙な関係性の中に絡め取られていく。

 言葉によって作られる、卵の殻のような世界。その世界は実は割れやすい。「ほんとうに」って、どうほんとうなのか。男1の「ほんとう」は出会う「ほんとう」とどうやら全然違っている。人々が、ライオンに(トラに、クマに)「ほんとうに」たべられたくないと力説すると、卵の外側に(あるいは内側に)もうひとつ完全な殻が出現し、そのたび男1はよりどころを壊されて慌てふためく。まるで殻のあいだで世界がねじれていくようだ。一番外の世界の縁では、さっきまであんなにかわいかった電信柱が、大口あいて哄笑している。

 この猛獣たちは「死」なのかなとうっかり考えてしまったが、そう思わない方が、不条理感がいっぱいで面白い。ぼーっとしていると間の悪い人間は(じぶんは)、共同体のいけにえになったり、いけにえを作ったりしてしまうなと怖くなる。しかし、私はこの宙吊りになった、不思議な世界で娯しかった。