日本総合悲劇協会 vol.five 『不倫探偵 ~最期の過ち~』

 「不倫探偵」と聞くと反射的に、「おしどり探偵」と返してしまう。Partners in Crime、アガサ・クリスティだ。「不倫」「おしどり」、どっちも、相手がいないと成り立たない。結婚か不倫かの対称的な違いはあるけど。合法か罪か。題名のインパクトも、とんとんだ。

 舞台が始まると白いベストとズボンに身を包んだ探偵罪十郎(つみ・じゅうろう=松尾スズキ)が、その事務所にいる。煤けた壁に白い帽子と白いジャケットがかかる。罪十郎は、依頼人の人妻宇山麻里(平岩紙)に夫孝太郎(近藤公園)の浮気調査を依頼される。だが彼は麻里といきなり不倫してしまう。その間に孝太郎が、隣の部屋で殺された。そこに居合わせた、母の形見の銃を持つホテトル嬢キャンディ(二階堂ふみ)。徐々に明らかになる夫の性癖と殺人のゆくたて、キャンディと喜屋武光男(皆川猿時)の暗い秘密。そして探偵の死んだ妻京子(伊勢志摩)が、人間関係のキーポイントとなって罪十郎の過去を明らかにする。

 ギャグは面白いのもあればそうでないのもある。そして筋立ては暗く、重い。しかし観終わった後は意外にもすっきり爽やかだ。それは、役者のニュアンスの出し方がみな程がよくて巧いこと、喜屋武光男と罪十郎が、キャンディを挟んで陰と陽の父性の相似形を描いていることからきているのだろう。それにもう一つ、麻里が出演するAVは、人妻であることを売りにする「不倫」AVなのだが、それがこの物語のとても複雑な経路をたどり、一周まわって裏返しの「おしどり」AVに見えるのが良かった。赤星乱(片桐はいり)の着地点も、同じ感じだ。合法と罪が、同一平面に接地している。

 松尾スズキ、脱力の演技だが、歌を歌うところなど面白かった。ただの脱力じゃない。