ままごと 『わが星』

 日常に理科は要らん。星も見ない。月はただ、そこにある。あたふたしている。忙しいなあ。

 そういう毎日を引きずって劇場に入る。暗い。円形の舞台を客席が囲む。星。丸い電球が8つ、小さく灯る。黒い舞台には目印のテープ(バミリテープ?)が1つも貼られていない。漆黒。4秒後に明かりが消えます、と告げられた後、ふっと暗くなる。物思わしげに暗くなったような気がする。何心もなく、ただ暗くなったような気もする。浜辺の夜のようにまっくら。宇宙に浮かんでいるようにまっくら。

 こうして芝居は丁寧に丁寧に、観客の中の『わが星』=地球=わたし を掘り起こしてゆく。年に3,8センチずつ、地球から遠ざかっている月。100億年。いつか必ず来る星の終り。理科の扉を開けられる。というか理科と私たちを隔てる帳をめくっていく感じ。団地の家族とその生活が、呪文のようなラップを交えてつづられる。さっきのやり取りと、今のやり取りは、おなじなのだけど、どこか違う。いくつもの似通った帳をどんどんめくっていって、違う場所へたどり着く。時報のような音が刻まれつづける。

 引っ越してきたちーちゃん(端田新菜)は、月ちゃん(斎藤淳子)と友達になる。ふたりはなかよくなり、そして、大きくなるにつれ、すこし、ほんのすこし、年に3,8センチずつ、遠くなる。ちーちゃんは年ごとに微妙に違う誕生日を迎え、いつか「おわり」の時が来る。「おわり」は「生きる」とそれほど変わらない、対極じゃない。つながりの果ての、ほんのすこし別のものなのだ。

 永井秀樹山内健司、すんごい体が動くのでびっくり。思えば動くところをあまり見たことがなかったのだった。