新橋演舞場 歌舞伎NEXT『阿弖流為』

 「あれっ、歌舞伎?」

 チケットを受け取って、ちょっと固まっている。さんざん逡巡して、明け方にえいっと取った一枚だ。あんまりチラシがかっこよくて、つい。16500円。最近、一般の芝居も値上がっているからなあ。そうか。歌舞伎か。と、まだ言いつつ、劇場に入る。

 すると、リストバンド(操作無用)配られちゃう。参加の演劇?歌舞伎で?場内には、うすーく、ねぷたのお囃子らしきものが流れている。上手と下手に二つの花道。幕は歌舞伎の、黒と柿色と緑の幕だ。

 古代の日の国。はるか北の国、蝦夷(えみし)の討伐のため、若い坂上田村麻呂中村勘九郎)が征夷大将軍に任じられる。都を跳梁する、蝦夷を騙る盗賊団の正体を暴こうとする一組の男女、それを助ける田村麻呂。蝦夷の神の怒りに触れ、名や記憶をうしなっていた男と、美しい女は、再会を果たしたことで自分を取り戻す。その名は阿弖流為市川染五郎)、そして立烏帽子こと鈴鹿中村七之助)。追われた国に戻り、朝廷と戦うことを決意する阿弖流為阿弖流為と田村麻呂は互いに名乗りあって別れるが、戦いの運命は、再び二人を引き寄せてゆく。

 「義と大義。大がつくとどうも胡散臭くなる」という田村麻呂。闊達で、まっすぐで、思いやりぶかい、若い者の一番いい所を取り出したような造形だ。対する阿弖流為は、自分のやっている戦いは、つまるところ敵の朝廷が「統一」を目指すのと変わりがないのではないかと悩む。とっても今日的なテーマが扱われていて飽きさせない。

 この芝居は、マンガを抜きにしては語れない。北斎漫画のマンガじゃなく、かつての蔑視されていたマンガじゃなく、どんな世界も描くことができると認められた「クールな日本」のよりどころの、「たったいま」のマンガだ。歌舞伎的なマンガ、マンガ的な歌舞伎、マンガを呑み込んだ歌舞伎、それらを自由に往き来しながら、物語は進む。

 激しいたたかい(上段、下段、中段にすばやく空を切る刀、ひるがえる裾、飛び散る汗)。ゆっくりした歌舞伎のたたかい。権謀術数、愛、かなしみ、怒り、裏切り、感情が様式に則って表現される。違和感ない。染五郎アラハバキの神の使いを倒して、「ぎっかりときまった」(っていう?)場面の、リアルなウキヨエ(マンガも可)とかほしいなー。

 両花道で、染五郎勘九郎が、仁王立ちになり名乗りあうところも、ほんとうにかっこよかった。七之助は、違う人格になりかわるのが迫力あった。

 構成がしっかりしていて人物のキャラクターがどれも明確。主役はもちろん、どの役もいい役に見える。蛮甲(片岡亀蔵)、稀継(坂東彌十郎)、御霊御前(市村萬次郎)。御霊御前の衣裳の着こなし感もすてき。熊子(土橋慶一)と蛮甲に、徐々に感情移入していく自分がシュール。シーンの展開が無駄なくスピーディである。序幕の阿弖流為と立烏帽子が、互いをそれと気づくあたりが、すこし唐突な気がする以外は言うことない。あと跳人にもっと跳ねてほしい。たのしかった。16500円の価値が十分あったとおもう。