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新国立劇場 『かがみのかなたはたなかのなかに』

 中央に、窓枠みたいなものが吊るされている。その前に花の鉢が置いてあって、枠の向こうにも、対称に同じ花の鉢。上手にドアと本だな、そこには壁がある。壁が切れたあたりにベンチ、クッションが二つ。暗がりを透かし見ると、奥にもベンチがあって、同じクッションが二つ。下手のテーブルと椅子二つ、やっぱり奥にテーブルと椅子。鏡のようになっている。上手にランプスタンド、下手にコートハンガー。あれ?これは一つずつしかないの?そうだ、ここんとこが怖いのだ。スタンドとハンガーは、「あっち側」と「こっち側」で「共有」されている。「こっち側」にいるのは兵隊のたなか(首藤康之)、「あっち側」にいるのは鏡に映るかなた(近藤良平)。窓を開けて、銃を撃つ真似をするたなか。海が見える。ひとりぼっちのたなかは戦争に行くのを待っている。死ぬかもしれない。殺すかも。

 鏡のかなたがいつのまにか現れた。ピザの配達こいけ(長塚圭史)を映す鏡の中からけいこ(松たか子)がやってくる。

 最初、下手から上手へ歩いていくたなかに、ふいにかなたの姿が付き随うのが、ファンタジーの入り口ぽくていい。ぴったりあったたなかとかなたの鏡の世界が、段々にずれていく導入部、たなかはワインを飲んだりピザを食べたりする。伸ばす腕、曲げる肱。そのいちいちが美しい。かなたも同じ動作をなぞるが、次第にコミカルなかなたの性格が出てくる。たなかとかなたの間で調子に乗ったけいこは、自分と分身のことしか考えないたなかにこわい目にあわされる。ちぐはぐな自意識のこいけとけいこだけど、もっとひし!と抱き合う方がいいような気がした。ちょっと笑える方が、ほっとする方が、好きだ。鏡の中の一連のできごとがすっかりさっぱりすみ、ひとりぼっちのたなかは戦場へ行く。死ぬかもしれない。殺すかも。