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シネ・リーブル池袋 ナショナルシアターライブ『欲望という名の電車』

 スタンリー(ベン・フォスター)とステラ(ヴァネッサ・カービー)の住む二間のアパートに、ステラの姉ブランチ(ジリアン・アンダーソン)がやってくる。労働者階級のスタンリーと、地主の出身のブランチは気が合わない。暑い夏、息の詰まるような狭いアパートで、二人は次第にぶつかり合うようになり、スタンリーはブランチの過去を暴いて、追いつめる。

 舞台には上下(かみしも)がない。セットがゆっくり、くるくる回るのだ。まわりを客席が囲み、中央にカーテンで仕切られる壁のない部屋とバスルームが素通しで見える。全体に白で、軽やかな感じに作られている装置なのに、蛇口は不似合いなくらいにしっかりした水栓金具だ。蛇口って、男性の象徴だよね。男の人の理屈で世界の全てが回っていた時代の話。

 素通しのアパートは三人の人間の気配で混み合い、緊張が高まる。なにか電流のような、まだ名前のない欲望が部屋を満たしている。シャワーの水は、ちょろちょろとしか出ない。そのフラストレーション。代わりにブランチは酒をあおる。緩い大きなウェーブをつけたブランチの髪が、セットの影になって、また現れる。拠って立つところが動き続けている、船酔いみたいな定まらない感じ。ブランチの気持ちになる。いつでも男のペースで世界回されたら、たまらんでしょう。スタンリーは足元が動いていることに気づいてないかもしれないし、ステラはそれに順応している。

 もう戻ってこれないようなどこか遠い所で惑乱していたブランチが、「ミス・デュボア」と呼びかけられて我に返るシーンがかなしく、美しい。ブランチを描いたように見せて、男って何かと問うていると思う。そう思わないと、何だかとても残酷な芝居になってしまうから。