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オフィスコットーネプロデュース 『人民の敵』

 「全体」「個人」とそれぞれ書いた札を作り、「個人」の札を選んだ人のことは、もうほっといて。と、ちょっとキレ気味に考えていた子供時代がありました。それを思い出すくらい、主人公ストックマン(瀬川亮)がこども。

 温泉湯治場をもつノルウェーの田舎町。その源泉が排水で汚染されていることを知った医師ストックマンは、事実を公表しようとする。彼は自分の正しさを信じて、様々な人の思惑(つまり政治)の中に、徒手空拳で、無邪気につっこんでゆく。

 こう書くと、なんか、(だいじょうぶ?)って感じがすると思うが、イプセンとストックマンは、正義や真理がとおらないのはなぜなのか、考え続ける。金、名誉欲、権力。台本は原作を上手に刈り込んで、妻カトリーネ(松永玲子)の立場をはっきり打ち出す。カトリーネが、子供のことを考えて!というくだりで、ストックマンは完全に翻意しそうに見える。ここで芝居が終わってしまうかと思うほどだった。しばらく首を垂れていたストックマンは、やっぱり戦う、というのだが、すこし苦しい。カトリーネのセリフが、凄い説得力なのだ。その妻の支えがあるから、ストックマンの戦いは継続できる、ともいえるけど。

 この芝居は最後のストックマンのいいセリフで成立していると思っていたのに、そこで奥さんが(とほほ)って顔をする。弱まらない?ストックマンは成長しない。ずっと若者。兄(山本亨)をペーテルと呼ぶときは、少年時代の顔がもっと覗くはずでは。

 「個人」の札には「責任」と「孤独」がついて回る。「全体」と「個人」の相克をどう生きるか、正論を言う子供でありながら、大人の社会をどう乗りきるか。むずかしいことをいろいろ考えた。