シアタートラム 『夜への長い旅路』

 舞台に出てきた4人の人間が密に立ち、軽く身体に腕をかけあう。家族。時間と空間を長く共有する人たち。愛情。平和。喜び。そして、その裏側の嫉妬、争い、哀しみ。

 ユージン・オニールって人は、アメリカでとても有名な俳優の息子で、金持ちの坊ちゃんだった。お母さんは麻薬依存、お兄さんはアルコール依存、お父さんはとてもケチ。ずいぶん晩年になってから、家族をモデルにこの『夜への長い旅路』を書いた。自伝劇と言われているけれど、自分に都合の悪いことは省いてあるんだって。なんか、魔物に追われるように家族に追われてる感じ。

 オニールは、「三枚のお札」の小僧よろしく、あとを追ってくる家族たちに、お札を投げる。兄ジェイミー(田中圭)には「嫉妬」の札。酔っぱらった兄は、弟エドマンド(満島真之介)が、自分より立派になりはしないかという嫉妬で気が気ではないと打ち明ける。俺に気を許すなという。一人でおちていくのはさびしいんだ。このセリフが、とてもよかった。父タイロン(益岡徹)には「理解」。タイロンは、けちだけど、ユーモラス。静かな劇場で、時々くすっと笑ってしまった。そして母メアリー(麻実れい)には「苦痛」の札だ。依存症と、それを押し隠す自分の葛藤がすばらしい。オニールはメアリーのかなしみを共有し、苦しむ。複雑な家族への感情や、病気に胸を痛める若い自分の姿を浮き彫りにする。夏の一日が、光と影を交互に繰り返しながら現れる。それは愛と憎しみみたいだ。憎しみだけなら話は簡単だ。でも、家族には愛が絡む。厄介だね。 

 母はトランクの中から過去を取り出す。家族は愛する。憎む。追ってくる。家族をこんな風に描くには、オニールほどの覚悟がいる。満島真之介、叫び声よくなった。でも叫びにバリエーションが欲しい。