NYLON100°C 43rd session 『消失』

 終幕、ネハムキン(松永玲子)やスタンリー(みのすけ)が最後のセリフを言って、舞台が暗くなると、この物語がどこをどう通ってこの結末にたどり着いたのかわからなくなり、一瞬混乱する。たしか最初は、クリスマスツリーを楽しげに飾り、ドアの上の金モールが光を反射してきらきらしてた筈。プレゼントのセーターが、大切そうに袋から取り出され、パーティーの予感で、世界がわくわくしているように感じられたのに。

 『消失』はハヤカワ演劇文庫から出版されていて、最後に参考資料として、小津安二郎、アップダイク、江國香織の『間宮兄弟』があげられている。本を買う時ぱらっとそこに目をとめて、ふーん、すごく内向きな話なのかな、と思った。自足している世界、胎内の安息みたいな。

 47才と42才のフォルティー兄弟は親に捨てられてから二人暮らしだ。弟のスタンはスワンレイク嬢(犬山イヌコ)に恋をしている。弟の世話を焼きすぎるほど焼き、恋の面倒も見る兄チャズ(大倉孝二)。一見、永遠に子供時代を続行している奇妙な兄弟のほっこり生活は、段々に、登場人物それぞれの奔流のような物語に押し流され、自足と安息のすぐ外で、失われるあらゆるものが列挙される。スタンの体調をみるドーネン(三宅弘城)の足のもつれ、いなくなった女たち、二つのぼる月、システムとその命令。フォルティー兄弟は世界を失うが、その外側の世界もまた、失われているという、消失の一点にすべてが収斂していくものがたり。すごい。力技だ。

 ナイロンの俳優たちは消しゴムをかけたお清書みたいに、あいまいさがなく引き締まっている。そのリアルさを下支えする八嶋智人も、きっちり役目を果たしていて安心できる。