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二兎社公演40 『書く女』

 「半井うしがもとを出しは四時頃成けん、白皚々たる雪中、りんりんたる寒気ををかして帰る、」あるいは、「りんりんたる寒さをおかし、白く輝く道を帰る。」

 一番幸せだった日。何度も何度も思い返す半日。それはこの雪の日だ。一葉(黒木華)とその小説の師半井桃水(平岳大)の端座する背後に、霏々として雪が降る。

 しんとした雪の気配の中で、火鉢を挟んで、思う人の作った汁粉を食べる。箸は一膳あるきり、透明の甘い汁とその湯気。

 しあわせだよね。しあわせのつめあわせ、幸せのカプセルみたいだ。一葉は手の中にいつもそれをもっていて、たぶん辛くなるとそっと服用するのだ。思い出は一葉の胸の内でさまざまに変容していく。思う人との対話は微妙で、不安で、決して一色には受け取れない。明るい色になったり、暗い色になったりする。泊って行けとかいう男だし。しかも桃水に、子供がいるという噂が立つ。一葉のカプセルが、薬のように苦くなった。顔に冷笑が貼りつく。すね者と呼ばれる。だがそのことが一葉を作家にする。あの「雪の日」は一葉に小説を書かせる水源であり、桃水は、「書く女」一葉が力を込めて磨る墨となったのだ。

 一葉は「しねくね」していたとかやっかみにも見える文章を残している田辺龍子(長尾純子)が、女性の先輩として好意的に描かれているところが好き。と同時に、悪いうわさを流した、かもしれない野々宮菊子(森岡光)については、突っ込んだ描写がない。女の人を悪者にはしないんだね。全編を支える「雪の日」の甘さが薄い。もっとしみじみお汁粉食べないと。平岳大好演、でも一番目のセリフが弱い。黒木華も好演、最後のセリフの着地がんばろう。