野田地図 第20回公演 『逆鱗』②

 大音量のセックス・ピストルズ、世代的に中学でパンクを浴びてる私はもうテンションが上がる。舞台は暗く、墨染の衣のような黒、上方はうっすら赤い。パンフレットのさかなクンによれば、海を数十メートル潜ると、暗闇はいつの間にかすこしあかくみえてくるらしい。ここは深海?

 シド・ヴィシャスのマイウェイが鳴り響き、不意に止む。人魚(松たか子)の登場だ。この人魚はNINGYOという表記になっていて、そのわけは芝居の途中で明かされる。ここまで書いてすごく迷う。ネタバレってどうなのか。戯曲出てるけど。新潮3月号。

 とある水族館。そこに今、新しい水槽が運び込まれようとしている。この水槽に、人魚を入れようというのだ。

 人魚を捕えようとして画策する人々、実際に捕えに行く人々、雇われる人魚、海を深く潜れば潜るほど、皆が皆、変貌していく。

 時代の柩。無残で、無益な死を、野田秀樹はつきつめる。死者の時間に肉薄する。その柩の中までも。モガリ・サマヨウ(瑛太)の発する「おーい」という叫び、その叫びが何心ない無邪気なものから、苦しげな、絶望したものに変わると、日頃考えないようにしている事、宣告された死、徐々にくる窒息、口に出してはならない恐怖が、雪崩を打って観客の私に襲いかかってくる。殯り(もがり)の柩はどこかに安置されているのではない。朽ち、腐乱しながら水底にある。「いま、ここ」にある。人魚の叫びの中にある。叩きつけるようにまたシド・ヴィシャスの怒りに満ちたマイウェイが鳴る。

 疑問を持たずに赴くイルカ君(満島真之介)と、モガリとの、無邪気の質の違いが分かりにくかった。銀粉蝶、登場した時から放射している水温が低く、『深海感』たっぷり。