野田地図 第20回公演 『逆鱗』①

 昼下がりのカフェテラス、ミルクティーを注文。カップに浸した三角のティーバッグを、ぴょんぴょんと小刻みに上下動させていたら、そのぴんと張った糸の先にあるのは、何だか「潜水鵜」の誰かのような気がしてきて、

        おーい

 もう、だめ!飲めない!

 こんな感じ。ネタバレなしで感想を説明するのがものすごく難しいです。

 人魚を展示しようとしている水族館。人魚はまだいない。どうやって人魚を捕まえるのか。鵜飼のように綱をつけ、海に潜って探しに行く潜水鵜に応募するサキモリ・オモウ(阿部サダヲ)、いつの間にか巻き込まれる電報配達人モガリ・サマヨウ(瑛太)、人魚志望のNINGYO(松たか子)。物語は海底と地上を往還しながら語られる、と思いきや、水槽の中で魚が向きを変え、見せていたからだが裏側になるように、全てが裏返しになる。

 『エッグ』で、登場人物たちは無念をかみしめつつロッカーの中に閉じ込められてしまうが、今作の野田秀樹は、もっとストレートだ。自ら、棺のような小さな、死の空間に踏み込む。その冷たさ、狭さ、静けさ、空気の薄さ、恐怖、無益さ加減。生きている人間のぎりぎりまで死者の時間に接近し、彼らの息遣いを聴く。そして、直截であること、単純であることを恐れない。それを上回る悲しみと怒りが、痛切に描かれる。

 瑛太の「おーい」というセリフが素直で、とてもよかった。松たか子の声は素晴らしく、アンサンブルの挙措がうつくしい。疑問を持たずに赴くイルカ・モノノウ(満島真之介)とモガリとの、無邪気の質の違いが分かりにくかったと思う。