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おちないリンゴ#14 『憂いある永久機関』

 自分のことを、お父さんが浮気してできた子供だとずーっと思っていたら、実はお母さんの浮気の子でした。という昔の小説を読んで、爆笑していた若い日。不倫はそんなにも、自分から遠かった。浮気するならそれはお父さんだと、決めつけてもいた。

 時は移って、今日観た芝居は、家族とは何かと問う芝居。不倫が登場する。手の施しようのない感じ。ほどけて行って、押しとどめられない糸のよう。争い、不和。その間もそのあとも、家族は軋みながら存在し続ける。

 不倫が問題だ。「お父さん=浮気=悪者」のころからすると、観ている私も大人になっている。そして身近です。

 「否定も肯定もしない男は地獄に落ちろ!」というのが母(由川悠紀子)の口癖だが、夫(多田広輝)に対する不満らしい不満はそれだけで、しかもこのセリフから地獄がのぞかない。ああ、これはそういうこともあるかも、という誰の味方にも立てない感じが少し欲しい。不倫と経済の錯綜した人間関係、細かい芝居ができて面白い所のはずだ。夫にがんばってほしい。布施さん(加藤記生)が初めて教室にやってくるやり取りが冗長。笑わせるセリフを立てないで、地のセリフに埋め込んで(金子みすずのセリフとか)あるけれど、あれは最近のはやりなのかな?すこしだと効果的だけど。絵画教室の人々が、ちいさな四角いフレームの架空の絵に向かって絵筆を動かす手つきがこまやか。絵が見える。

 母役の由川悠紀子が、研ぎ澄まされた素晴らしい芝居をする。あやまるには重すぎる過去を背負って、彼女は娘イチコ(木村佐都美)の背中に手を伸ばす。その手つきの繊細さ、優しさ。全体に、以前観たどの俳優も、デリケートさの感度が前公演よりアップしていると思う。