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2016年劇団☆新感線春興行 いのうえ歌舞伎《黒》BLACK 『乱鶯』

 押して引いて、押して引いて、さし引きする潮みたいに、寄せては返す波みたいに、芝居は生き物だ。

 古田新太は引く芝居が上手。昔、NHKの大河で商人やった時は、じれったくなるほど引いていた。引く芝居ができるから、ばーんと押す芝居がいいのだ。膂力を感じる。芝居の全て(女たち、斃れる男、流れる血飛沫、笑い、さっと入れ替わる空気)、ぜーんぶ肩に背負って立ち上がる力。それを目にするたび、ああ古田新太を観たなと思って客は満足して帰ってゆく。倉持裕の脚本は、そこのところがよくわかっていたと思う。

 乱鶯。芝居は遠浅の海のように、どこまでも引く。最後に押すためだ。幕切れは、かっこよくて、爆発力があり、油のようにぎらりと輝く。死んでいく者のセリフの残響を背に、歩いてゆくところなんてすばらしい。盗賊、鶯の十三郎(古田新太)の様々なことが胸に来る。きれいな青磁の壺が割れて、その破片を指でたどっている気持ち。いつの間にか指先が切れ、糸のような血が滲む。

 ただ、この芝居は35分の休憩を入れて、3時間40分あるのだ。ずっと引きの芝居だと、きつい。とくにお加代(稲森いずみ)と源三郎(実は十三郎=古田新太)のシーン。大人の恋に、リアリティがない。「源さん、あたし、」と言い出したら終了なのにねと思ってしまう。互いの、かけちがう、真剣なこわいような眼差しがあればなー。高田聖子と山本亨が、調子の高い、集中したリアリティでとてもよかった。せっかくの大人向けの芝居ならば、どの役者にも持続する細かいリアリティが欲しい。

 あと、勝之助(大東駿介)の殺陣で、刃先がかすかに震えていたらいいのにと思う。それは実録残酷物がみたいからじゃない。迫真性を、求めてしまいました。