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てがみ座 『対岸の永遠』

 酔い潰れながら目を上げると、そこにはいつも父(半海一晃)が、なぜか父がいて、窓から入ってきたり、椅子の上に立っていたり、くすくす笑っていたりする。父は妖精のよう、世界を漂流する亡霊のよう。

 1999年、ソビエト連邦が崩壊して10年近く、翻訳者のエレナ・ミンツ(石村みか)のもとを一人のアメリカ人(ユリウス・ミラー=亀田佳明)が訪ねる。彼は、生前懇意にしていたエレナの父アンドレイ・ミンツの遺品を届けに来たのだ。誰にも何も言わずに一人で国を出た詩人の父、エレナは父を憎んでいて、遺された手紙を見ようともしない。しかし、共産主義に寄与しない寄生虫として父が断罪された裁判記録を読み進めるうち、ふと心が変わる。父のいる彼岸とエレナのいる此岸、繋がりを持てないもの、繋がれたもの、繋がりを失いつつあるものがかわるがわる現れ、世界はいつか一枚のカーテンのように、水面の波紋のように遠く響きあう。

 つながりかー。娼婦のリーザ(西田夏奈子)はチェチェンから逃げてきた女だが、そのこころの繋がりは彼女を泣かせる。また、リーザが仕事として「繋がれ」ているのは、繋がりの抑圧の面を象徴している。いろいろなつながりがいろいろな角度で語られる。

 半海一晃の妖精ぶりが素晴らしい。話を推進していくモーターのようだ。最初のスピーチも、すてきな「音」だった。

 みんなすらすら秘密を暴露してしまい、劇的緊張に少し欠けるかな。感情のぶつかり合いはソフトフォーカスで、レース越しみたいにピントが甘い。

 立派で、まじめで、考え抜かれ、地味だけど文句のつけられない結末でした。全てを説明してくれる芝居です。