シス・カンパニー公演 『アルカディア』

 理科の法則。厳密でシャープで、明確なものを前にして、まことにごめんなんだけど、芝居の間中、出典の明らかでない、あやふやで、完全にうろ覚えの、英詩のことを思い出していた。

 それは確か、庭のことをうたったものだったはず。日時計の影がゆっくり回り、かたつむりがすかんぽの葉の上を這う。しかしそのどれよりもゆっくりと、苔が日時計の石を覆ってゆく。

 19世紀の天才少女トマシナ(趣里)がアルゴリズムの計算法を見つけ出したり、ライスプディングにジャムを入れてかき混ぜ、次に逆方向に混ぜても元に戻らないことを家庭教師セプティマス(井上芳雄)に報告している間も、現代の作家ハンナ(寺島しのぶ)がシドリーパーク荘園について調べ、バイロン研究家バーナード(堤真一)と議論している間も、流れ続けてゆく、時間。時間は法則―真理の探究の上にも、日々の雑事やラブ・アフェアにも、平等に流れる。それが過去と現在と、客席を均質にして、かき混ぜてゆくようだ。トム・ストッパードは永遠の一瞬、一瞬の永遠について考える。アルカディアにも時間は流れ、そこに死はある。死を含んでいて、なのに幸福な時。これさ、難しそうに見えるけど、ものすごくすてきな話なんじゃないの?と、滅びの呪文みたいな熱力学第二法則を思い浮かべながらろうそくの火をじっと見た。

 バーナードにはバイロンが投影されていると思う。バイロンて、もてたと同時に「もてる気じゅうぶん」の男、誰にでもいいよるタイプだったんじゃないかなあ。ハンナがバーナードに、やすやすとキスされるので、ハンナの性格がよく解らなかった。今まであまり可視化されたことのない、小包みたいに自分を扱う女の人が見たかった気がする。トマシナの趣里が健闘。足気を付けてね。ってそのひやひやが肝だけどさ。