東京宝塚劇場 雪組公演 『るろうに剣心』

 花組星組月組雪組宙組があるらしい。戦前からあるらしい。小林一三翁がつくった。数限りなくスターをつくってきた。と、ぼやっとした認識で、芝居を観たらびっくりする。まず、踊りが揃っていることと歌の音程がしっかりしていることが初期設定なのだった。すごい。『るろうに剣心』が始まるとすぐ立ち回りだが、その刀の太刀筋が舞のようにきれい。神谷薫(咲妃みゆ)の竹刀はぴしっと振れている。斎藤一(彩風咲奈)の長靴(ちょうか)は正しく、男っぽく外輪を描き、様になっている。こうした細部が物語を支える。

 幕末の京都、人斬り抜刀斎と呼ばれた緋村剣心早霧せいな)は新撰組加納惣三郎(望海風斗)と一触即発になるが、加納は私欲のために強盗を働いたことがばれ、同志新選組に追われて逃げ去ってゆく。時は流れて明治11年、今は殺人剣を封じて流浪人となった剣心の前に、貿易商として悪事をたくらむ加納が現れる。

 ものすごくたくさんの人が登場するにもかかわらず、キャストの隅々まで電流が通っているみたいだ。早霧せいなは芝居が進むにつれ、本当に、あの小柄な若い流浪人のように見えてくる。武田観柳の彩凪翔が、遠慮がちながら個性的。

 観ているうちに、「あんたがた、全員大竹しのぶみたいにやったらいい」と過激なことを考える。大竹しのぶはすごく自由。体の中で見つけたものを役柄に必ずのせてくる。そしてやりきる。あんまりやると宝塚では誰かに怒られるのかもしれないけど、怒られたらやめればいいんだから。又は、やめなくていいし。とにかく個性が大事です。

 芝居とフィナーレが、表釦(ボタン)と裏釦、それとも裏釦と表釦、リヴァーシブルみたいで感心する。うつくしくかっこよかった。