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ペルー大使館 『マルティン・チャンビ写真展』

 会場に入った途端、なにか、かたまりみたいな白黒写真が目を搏つ。ぎざぎざしているところ、階段状にでこぼこしているところ、ごつごつしているところ、質感がごちゃまぜなもの。マチュピチュだ。インカ帝国の謎の都マチュピチュ、それならよく雑誌やテレビ、旅行案内で見かける。険しい山の尾根に累々と石積みされた畑、石の建物、その隙間を縫う緑。一つの尾根、一つの山が丸ごと精密な建造物に姿を変えている。空中都市よね。知ってる。

 時々起ることだけど、「知ってる」ことが邪魔して写真そのものを見失いそうになる。しかしこの写真は、2000年代の再プリントとはいえ、1928年マチュピチュなのだった。あまりの鮮明さに驚くと同時に、対象にびしっとピントが合っていることに感動する。だって近寄ると、細かい藪(1928年マチュピチュには、藪があったのだ)から突き出た細い灌木(裸木)の一本一本が、精細に光っている。マチュピチュの全容、その質感を捉える、ということに、撮影した人が腕とプライドの全てを賭けている感じだ。「チチカカ湖の葦舟」(1925)の水面の、静かに幾重にも続く波紋、なめらかな水の隆起、束ねられた葦がきつく結わえられてかすかにふくらんでいる様子。この撮影者は世界の皺を見逃さない、そのなつかしい肌合いを見分け、写真に定着する。

 マルティン・チャンビ(1891~1973)は、ペルーの先住民の血筋の人で、身のまわりの人々やペルーの景観を数多く撮影している。「エセキエル・アルセとジャガイモの収穫」(1939)収穫したジャガイモの上に寝そべる農民たち、どの顔からも日常のピッチ(高さ)の声が聴こえる。作らない声。おびえない声。写真を撮る人は被写体を見下ろしてはいない。緊張させない。きっと静かに笑う温厚な人だったのではないだろうか。少ないけれど、一見の価値ある写真が並ぶ。入場無料。5月23日まで。

 11:00~17:00(金曜日は20:00まで) 日・祝閉館 

   ペルー大使館 視聴覚室「マチュピチュ

    東京都渋谷区広尾2-3-1