新国立劇場小劇場 鄭義信三部作vol.3 『パーマ屋スミレ』

 コレルリ、『ラ・フォリア』。シンプルで、かなしく、切ない主題が、さまざまに変奏されていく。バイオリンは静かに呟くように鳴り、かと思えばまた、何かを訴えるように強く叫んだりする。『焼肉ドラゴン』を観たあとで『パーマ屋スミレ』を観ると、互いが似ているために、このうつくしい熱情的な変奏曲を思い出さずにいられない。似てるよー。でも『パーマ屋スミレ』は悲劇度高い。昏い、激しい変奏だ。

 有明海を見下ろす町、アリラン峠。高須美(コ・スミ=南果歩)はこの貧しげな町で散髪屋を営んでいる。須美の夢はいつか美容室を開き、そこに「パーマ屋スミレ」と名をつけることだ。だが、夫の抗夫成勲(ソンフン=千葉哲也)が炭鉱の事故のために一酸化炭素中毒になり、須美の夢も、生活も、見る見る圧しつぶされていく。

 語り手である須美の甥大吉(酒向芳)は、少年時代(森田甘路)はデザイナー志望の、ゲイらしい男の子に設定されている。語り手がその後のうって変った人生を語ることで、彼の辛さが浮き彫りになる。もしかしたら家族を持たなかったのかもしれない。あの在日の須美の一族は、水泡が波間に消えてしまうように絶えてしまったのだと考えると、傘の優しさがひときわ沁みる。

 夫婦というものには、きっといい時やまずい時があり、とてもひとくちでは言えない関係なのだろう。その「ひとくちで言えなさ」が、舞台上に素晴らしい精度で再現される。

中毒で動けない妹婿昌平(森下能幸)を見る須美の優しいまなざしは、全編を救う感じがした。千葉哲也の絶望感がとても深い。

 セリフの熱量の受け渡しが、若干ごつごつしている。熱量に段差があり、正確にやり取りされていない。英勲(ヨンフン=村上淳)が最初に須美の手を触る所、もっと必死で初々しくてもいいのでは。