明後日プロデュースvol.1 『日の本一の大悪党』

 友達が来る日の、家の片づけ。塩梅がわからない。どのくらい片付けたらいいのか。蛇口の金具の曇りを取り、棚の塵を払う。片づけているうちにスイッチが入っちゃって、戸棚の整理、マガジンラックの撤去までして、段々に日頃の自分の部屋と、かけ離れていく。友達は、一体、誰んちに来るんだろ。部屋を見回して、ちょっと目まいが来る。

 てなことを考えるのも、頭の中に思い浮かべる小泉今日子の部屋が、いつなんどきでも、びしっと片付いているからだ。最高度の自己コントロール。スリッパの裏まできれいだし、ぬいぐるみがしどけなく見えるとしたら、それは小泉今日子に、しどけなさを施されている。

 『日の本一の大悪党』の小泉今日子の、出だしは極上だ。いちいち怖いのである。「あなたからお日様の匂いがする」というせりふですぅっと寒気がする。奈落へ誘引する女。トーンが正確。

 禄を離れ、裏店住まいをしている民谷伊右衛門安田顕)と妻お岩(小泉今日子)。浪人者に絡まれていた大きな料理屋の娘お梅(山野海)を助ける伊右衛門。とうの立った年頃のお梅は伊右衛門を好きになる。そこに現れるはかりごとと横恋慕。

 物語がカーブを切る場所が皆急すぎ、いろは坂のようにぎくしゃくしている。特に伊右衛門が狂気にとらわれるくだり、やりにくそう。その前の最後のお岩のセリフは、音域が狭くて、意味を伝えきれない。あの音域の狭さは、器質的なものというより、自己コントロールがあまりに完璧で、声に好悪の感情が出ないところからきているのではないだろうか。お部屋にあるもの、ひとつひとつを手に取って、「あたしこれほんとにすきかな?」と問い直すことを、お勧めしてみる。