新国立劇場中劇場 『あわれ彼女は娼婦』

 ジョヴァンニ(浦井健治)とアナベラ(蒼井優)の兄妹は、禁忌をおかして愛し合う。子供ができてしまったアナベラは、それを隠して有力な貴族ソランゾ(伊礼彼方)のもとに嫁ぐ。

 とてもセンセーショナルな題材だ。でも、なぜ妹と愛し合ってはいけないのですかと問うジョヴァンニに対して、有効な返事が見つけられない。ただ、なんかいやだと思うばかりなのだった。その点、ジョン・フォードは、禁忌についてよく考えている。

「貞節な女性たちが、処女と呼ばれている たわいもないものを失ったとき、なぜ貴重な損失と 思うのだろう、なんの変わりもないではないか、 依然としておまえはおまえだ。」(小田島雄志訳)

いいこという。けど、これだってきっと、反社会的な見方だったはずだ。そんなのジョヴァンニの言い分にすぎないといえばそうだけど、タブーだと思ったとたんに陥る思考停止、それをしない。

ジョヴァンニとアナベラが愛を語りあう時、世界は自由に見える。しかし、子供ができた二人は、世界の枠に捕えられる。ジョヴァンニはアナベラを手にかける。アナベラの断末魔の叫びには、哀れなのに何か喜びめいたものが感じられるが、その死をうけて、ジョヴァンニの吐き出す声の絶望は、観客の心の柔らかい部分に突き通る。蒼井優成長している。兄との秘め事を持った後登場すると、少女から一人の女になっていた。

 この芝居の凄いのは、このジョヴァンニとアナベラの愛と苦悩と運命を一瞬にして無化してしまうところだ。作者はその瞬間を「見た」と思う。

 封印。赤い巨大な十字架の下、この地の下に、愛、憎しみ、秘密、弱者、わけても妻でもなければ処女でもない女たち、娼婦と呼ばれた女たちが押しこめられている。