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パルコ劇場 『メルシー!おもてなし ~志の輔らくごMIX~』

 中井貴一が、すきー。というわけで、私は昔の、軽さが全然なじまなかった頃の中井貴一のことを、よぉく知っている。上品で誠実、芯のある若い人。その上品なまま、ポップなCMに出たときには、胸を痛めたものだった。「これはきっと、修行だよ。」

 今日の芝居はコメディだ。国際空港そば美珠町商店街。この商店街に、ある日、フランス特使夫人とその令嬢がやってくることになる。

 舞台があくと通訳の宮坂(サヘル・ローズ)と外務省の武田(音尾琢真)の電話のやり取り、それに続いてセットは、とつぜん、薬屋の店奥の座敷にかわる。妻路子(YOU)に呼ばれて電話に出る薬屋の主人吉田源造(中井貴一)。新聞を小脇に抱え、ベルトがちょっとゆるいので、どこから来たのかわかるのだが、客に教えない所が程がいい。あした特使が来ると話したりするうち、一通のファックスが入り、路子が取り乱す。舌がこわばってうまく話せない。ここ可笑しい。ファックスを巡って源造がヒートアップして行ったり、特使夫人の来る晴れの日に、持っていたはずのタキシードを着ようとする魚屋魚勝(勝村政信)が、上から下までぎっしりの押入れを妻明美(明星真由美)と探索したりと、可笑しい話がそれこそ押入れのように隙間なく詰まっている。ディテールの組み立てが確かで、笑った。もとは立川志の輔の落語である。

 中井貴一の躰は密度が高く、軽くも重くもなれる。感情に応じて隅々まで動く。もうちょっと脱力が欲しい。「札幌」と源造が言った後、すこし皆の芝居がしぼむ局面があったが、あれはあの一回きりの息切れだったのかなあ。

 軽い芝居を真剣に演じる。膨大なセリフを何気なくしゃべる。中井貴一はポップを躰に取り込んだ。その長くてきびしい修行の成果が、この笑いと軽さの中にある。