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劇団東京乾電池創立40周年記念本公演 『ただの自転車屋』

 本多劇場。「笑ってる場合ですよ」の人気も一服し、客席はちょっと空いていた。どんな芝居だったか、もうすっかり覚えていないが、カーテンコールのことは忘れない。中央に立った柄本明が頭を下げながら客席を見る。あれは空席をにらんでいたのだろうか。殺気に満ちた目付きというのがあるとするなら、あの時の柄本明の眼だったと思う。何度もお辞儀をするので、そのたびに視線の先の客席が怖くなっちゃったりした。

 月日は移り、柄本明は67歳、ベンガルは64歳、綾田俊樹は66歳である。

 小さな離島。古い旅館に宿を取った3人の男(ベンガル綾田俊樹、山地健仁)。宿のエアコンが壊れていて、それを修理に来た男(柄本明)。

 まず、「暑い」っていう芝居。みんな最初からずっと、きちんと暑そうだ。さりげない扇風機の奪い合いが可笑しい。エアコンとにらめっこしている柄本明が、客の話に興味を持つたび、穴の開いた靴下を見せながらゆっくり脚立の上で向きを変えるところもわくわくする。一見、何も起こらないと見える舞台の上で、笑えることがいろいろおこる。それは俳優自身の「老い」だ。度忘れ、息切れ、足のしびれ、のどの渇き、セリフを忘れた綾田俊樹に、ベンガルが優しく冷静に、「(芝居を)返しましょうか」といったのもおかしかった。ストーリーも面白い。「老い」をさらけ出しているところも面白い。だけど私は、えらそうにこう言いたいの。

 「ポール・サイモンをごらんなさい」

ポール・サイモンは74歳にして、新しいことに取り組むアグレッシブな作品を出したばかりである。私はあの時、睨まれたことを忘れていない観客だ。やっぱり、客と、老いと、たたかってほしいのだ。