花組芝居 全七段通し上演『桐一葉』

 疑い。「彼が浮気」「彼が宇宙人」「彼が間者(かんじゃ)」、どれだって、疑い出したらきりがない。思い込んだら、「そうでない理由」なんか、見つけられないもん。いつでも恋人の上にうすーい浮気の、宇宙人の、間者の影がかかっている。それが豊臣家の大坂城、つまり閉塞状態だったらどうなる。疑いは通気口を失って、濃く、強くなっていくはず。

 というようなことを、豊臣の五七の桐紋がいくつも浮かぶセットを見ながら考えた。しっかりした梁、柱、淡黄色の桐の模様を照らし出すちらちらするぼんぼりみたいな灯が、辺りの暗さをくっきりさせる。あ、もう豊臣家の命数短いんだなあと思う。建物の中にストレスと噂が溜まっている。柱から滲みだしている。

 大坂城淀殿加納幸和)は夢にうなされ、側近の幹部たちは重臣片桐且元(原川浩明)の裏切りを疑う。その疑いは徐々に強くなり、唆された武辺者石川伊豆守(桂憲一)はその暗殺を決意する。実は且元は、大御所家康の寿命をにらみ、一計を案じていたのだった。

 花組芝居、歌舞伎のような芝居をする小劇場と、ざっくり考えていたのだが、全然違う。表情は細かく動き、速くしゃべり、なんというか、歌舞伎の拍の、裏を取るって感じだ。最初に腰元が二人、舞台奥からずーっと出てくるのだが、それが意表をついていて、キュート。現代的な鋭角な色彩と、歌舞伎のゆっくりふんわりした色合いが混ざり合い、おもしろく、おかしい。且元が自宅で静々と事務を執っているところなど、笑わずにいられなかった。芝居が少し落ちるというような人は見当たらない、どの場面も拮抗している。原作に忠実である。しかしその原作がなんだか少し、意匠を凝らしすぎで入り込みにくい気がした。