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シアターオーブ 『キンキーブーツ KINKY BOOTS US NATIONAL TOUR IN JAPAN』

 声が見える。ドラァグクイーンのローラ(J・ハリソン・ジー)と、靴工場の社長チャーリー(アダム・カプラン)が、父の期待した通りの息子でなかった自分を歌う曲だ。(Not My Father’s Son)まるで柳絮(綿毛をつけた柳の小さい種)がたったひとつ、白く細い軌跡をつけながらすーっと相手のところまで飛んでいくみたい。向かい合って立つ二人の間の声は、とても呼吸があっていて、デリケートに正確にやり取りされている。心が揃っているんだなー。素敵なシーンだった。

 もちろん日本版もよかった。よかったのだが、このブロードウェイ版を観に来ることに決めて、ほんとによかった。人物のスケッチがしっかりしている。工場のシーンになり、靴を乗せたトロリーを運ぶ人、完品の靴をチェックする人、全員の視線が「仕事をしている」。また、チャーリーをサウサンプトンから連れ出すフィアンセニコラ(カリッサ・ホグランド)、幼馴染のチャーリーを突然好きになって慌てるローレン(ティファニー・エンゲン)が、添え物でなく、きちんと重心を持ってえがかれる。ローレンがワキアセを女の子らしくちょっと気にしちゃっているという前段がさらっと点描されるので、靴の埃落としを使うシーンもさらっと笑える。

 一幕の終り、全力でタクシーを呼ぼうとするローラは、デザイナーの夢を払い落とそうとしているように見える。しかし、チャーリーが「キンキーブーツ」という言葉を発すると、魅入られたようになる。スーツで現れるローラ=サイモンは思いのほか若く、傷つきやすそうだった。

 老人ホームで袖を翻しうたうローラも素晴らしい。Hold Me In Your Heart。一人の人間が自立していく過程を見るようである。老人の肩に置いた手が、やさしくて、きっぱりしていた。