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てがみ座第13回公演 『燦々』

 葛飾応為。画師。北斎の娘。本名お栄だが、父親から「アゴ」って呼ばれてた。小さな人形を作るのが上手で、これがよく売れた。画師に嫁いだが、夫の画のまずさを笑っちゃって、離縁。代表作は『吉原格子先之図』、『夜桜美人図』など、光と影を巧みに描き分けた美しい絵が残っている。

 「夫の画を笑って離縁」、他人事とは思われない、私もやりそう、「お前様、この線は何ですかい、ふっ」。「ふっ」って笑ったのか「ははは」って笑ったのか。蔵で、手文庫で、納戸で、歳月に曝され腐(くた)れていく豆人形や、掌に蛍をとらえて指の隙間から洩れる光をじいっと眺めるお栄が見える。「お栄、よしな、手が汚れる。」晩年、猫のように飄然と姿を消したのだそうだ。

 断片的な印象をじゃらじゃらさせて席に着くと、そこではお栄(三浦透子)が走る。火事を求めて走り、行く当てがないのに走り、善次郎(速水映人)の急を聞いて走る。お栄の伝説が、その瞬間、みな三浦透子の躰に貼りつくようだ。手入れされない、じゃまっけな「女」の長い髪を揺らして三浦は走る。他の人々が、竹の棒で作り出す江戸の町を、北斎漫画の世界(すてきだった)を、いっさんに。

 暗闇、暗がり、薄明り、夜明け、白昼、走るお栄を光が照らす。髪に紅い簪、「からだ」と物語が、うまくくっついていたと思う、もっと走っていい。前作では主人公の心理が、作家のつよい圧で枉げられていると感じたが、今作ではそんなことはない、登場人物がきちんと自分を生きている。

 「ちくわ、食う?」ってとても無骨で、必死で、いいセリフだと思う。大切にね。速水映人の二役におどろき、版元西村屋(中田春介)が見て見ぬふりをしてくれるのがいいと思った。全体にセリフがぶつ切りに聴こえ、ちょっと惜しい。