Zepp ブルーシアター六本木 『あずみ  戦国編 』

 「そば焼き作ってきて。」と女中に頼んでのん気にしてたら、お城の台所の方が火事。思えばそれが落城の日だったのです。という大坂城落城ドキュメントを読んだばかり。今日の『あずみ』はそんな話じゃない、もっと鋭く厳しい。

 戦国時代、孤児となった子供たちが刺客として育てられ、一種の戦斗マシーンと化している。彼らが教え込まれているのは、「天下のため、徳川のため、泰平の世のため」に尽くすのが、正義であり、自分たちの使命だということだ。孤児の中でもぬきんでて腕の立つ少女、あずみ(川栄李奈)。あずみは菩薩か夜叉か。加藤清正(久保田創)をつけ狙ううちに、その心に迷いが生まれる。相対する勢力のどちらも、各々正義を持ち、使命感を持ち、平和を希っていると知るのだ。

 そのことをこの芝居で最初に口にするのは、意外にも快楽殺人者の最上美女丸(早乙女友貴)である。目の覚めるような殺陣(タテ)、太刀筋までが美女丸のように妖しく生き生きしている。

 あずみは、失って、失って、失い続ける。清正を殺そうと懐から覗く刀の柄を握る手に、重い迷いと混乱があってもいい。

 あずみを助けるうきは(鈴木拡樹)はアンドレ(『ベルサイユのばら』ね)みたいな損な役回りで、あずみ、もっと好きになってあげてー。と思ってしまう。豊臣秀頼小園凌央)、首から上だけでしか芝居してなく、体が死んでいる。しかし、セリフに愛嬌があり、観客に聴かせる力がある。がんばれば、伸び代のある人だと感じた。

 星田英利、最初の独白の「ひでより」の「より」が聴こえない。声を大事にしてね。最後のあずみのセリフが、どんどん深まっていくことを期待します。