福岡サンパレス 『中村勘九郎中村七之助錦秋特別公演2016』

舞台に楽屋の拵え。あ、これからこの楽屋に役者さんが素で入ってくるのだ。とおもってうれしくてわらっちゃう。いいよね、こういう歌舞伎の解説。中村勘九郎七之助が司会だ。楽屋のちょうど中央に扇風機が置かれ、上手側に赤の四角い枠、下手に黒の枠が見える。この枠の前で座ってお化粧して見せるんだな。枠は鏡台の鏡のことなんだ。

紫の楽屋のれんに、中村鶴松と抜いてある。白い鶴が群れ飛んでいるところをくぐって、俳優が二人登場。一人は中村いてう(いちょう)、グレーの細身のニットにサングラス、もう一人が中村鶴松、黒の上下に白のストライプが一本入って見える服。今日びのかっこいい若い人たちだね。急いで浴衣に着替え始める。浴衣には(カメラでアップ)、たてよこ3本のチェックの中に、「中」と「ら」の字がある。筋が6本できるので、そこんとこを「む」というらしい。中村格子といいます。勘九郎七之助もはきはき説明し、面白いことを上手に言い、観客をそらさない。髭をあたった化粧前の二人ははやくも何か顔に塗り始める。それは「いしねり」(石練り)ってもの、びんつけ油の一番固いもので、これで眉をつぶして肌にくっつけるのだそうだ。毎回眉毛がとれちゃうくらい痛くて、眉を剃ってしまう人もいるらしい。手をこすってびんつけで顔も塗る。水おしろいの下地で、きちんとやっておかないとおしろいがむらになってしまう。ここで女形の鶴松さんに手伝いの人が来た。うなじの方までお化粧しなくちゃならないからね。鼻が高く見えるように、鼻筋にハイライト。水おしろいは襟から。ぽんぽんはたいてその上におしろいが白く塗られる。手早すぎて追いつけない。いてう丈がもう隈を入れている。鼻筋のわきと、目の下から眉尻に向けてあがっていく紅い隈(むきみ隈)。赤い人は正義の人、茶色の人は妖怪、青は悪人です。わかりやすいでしょ?はい。わかりやすいです。と言ってる間にもささっと赤い隈を少しぼかしている。鶴松丈はまゆをかいてる。女形はささまゆと呼ばれる眉が多いが、今日は「はねまゆ」。つよい女の人の役だからだって。アイライン、めはりは赤、年を取ると紫。役柄性格年齢で違う。顔ができた。浴衣を脱いでひざと足首をひもで縛る白い下着、その上に紅い、おなじように縛るものを身に着けている。女形は帯が高くなるほど若い。着肉という物を着るところ、帯が落ちてこないようにする肉襦袢のことだ、いろいろ着こんで大変だ。

着付けの間に附打さんが附けを打ったりしてくれる。二つ打つ間に小さい音がうっすら入り、これを中村屋の附けだといっていた。「カスミが入る」っていうんだって。この附けの紹介の前にも、風の音や波の音や滝の音を太鼓(長い撥)で打つところを見せてくれたのだが、二つのことを同時にできない自分(歩きながらジュースが飲めない)にとって、二重に進行する歌舞伎塾は退屈しないけどとても忙しい。はっ鬘をつける段取りになっちゃった。鬘の裏側は銅板がきらっとして、重そう。

鶴松丈は3人がかりで紫(蘇芳)の着物を着ているところ、「張り棒」ってもので、袖を四角く大きく見せる。いてう丈は黒い綿入れ、曾我五郎だから蝶の模様と決まっている。

と、言ってる間に役者が劇中で担当する効果音のレクチャーが始まる。なんか、どれもむずかしそう。会場の質問交えてきっちり一時間だった。おみごと。

『正札附根元曾我』今着付けを終えた曾我五郎(中村いてう)、舞鶴(中村鶴松)が、鎧のしころを引き合う踊り。二階正面から見ると二人の俳優がお人形さんのように小さく、きれい。白塗りの顔、赤い隈の下の、きれいな血のことを思うのだった。膝の前に揃う鳴り物の人々の手。それから鼓を取り上げる。

今にも駆け出しそうな五郎の足、舞鶴の髪につけた力紙が、びっくりするほど大きい。足拍子の掛け合いをして、しころを引き合う。音曲にあわせて視線をそろえて動かすところが、胸がすくようだ。上手、中央、上手。ツヅミはぽんぽん、オオカワはかっこ、決めつけていたんではわからない、なんか、胸の底を断ち割るような音。すっきりした。

『汐汲』 花道がないのが、もー、ざんねん。ひときわ明るく照らされて、七之助が登場。金色の烏帽子に草色の狩衣を半分身体にかけている。思う人の残したものを身に着けている鄙の女ってわけだ。静かに登場して下手(しもて)で汐汲み桶をかついだまま踊る。波のようにしなるからだ。すごいなあ。常々、踊りわからないっていってるけれど、この汐汲みの踊りって、はっきりわかられちゃったら終わりのような気がした。気取られる、察せられるくらいが大事で、それが品に通じているような。汐を汲んだ右の桶がずぅんと重くなるのが、わかっちゃったらだめで、心にふわっと感じられるのが重要なのかも。七之助の桶はかすかに重くなり、桶に通した棒も見えないくらいに扱いにくくなる。踊っているうちに狩衣の下の赤い袖が燃え立つように感じられ、際立ってくる。手ぬぐい、傘(三段重ねでとてもかわいい)、扇子をつかって、気品ある女ごころが演じられていたんだと思う。

『女伊達』熊子じゃん!と男伊達の土橋慶一の名前を見て、『阿弖流為』を思い出すのであった。なつかしい。こうして人は歌舞伎に嵌っていくんだねぇ。もう一人の男伊達は中村仲助。木崎のお仲(中村勘九郎)に、二人がかりで、乙に絡みやす。黒い着物に白い梅が飛び、裏は紫、献上博多の帯を締めている。勘九郎って二回しか見たことがなく、一回は野田マップで「おさーとー」と叫んでいたし、踊りを見たのも随分前だけど、その時は体のキレとか勘の良さでてきぱき踊るひとだなとおもったのだが(踊りわからないくせに…)、『女伊達』では「おはなしのなかのひと」になっていた。どうしてだかわからないが、お仲が真田丸のきりちゃんみたいな女の人に見え、尺八を男伊達とひっぱりあって踊る、そのときのひらひらと揃った手がうつくしく、目に残った。