シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017 『陥没』

 降る雪や明治は遠くなりにけり

と、草田男がうたったのが昭和6年。明治が終わって20年くらい後だね。明治が雪の中に吸い込まれるように消えてゆく。草田男の明治以上に、昭和も随分遠くなったなあ。陥没したように見えなくなる時代を、ケラが振り返る。

 そこは大聖堂のような建物。ちいさなマス目の窓ガラスで区切られ、二階までも吹き抜けで、三階に見まごう屋根は円形に次第にすぼまって、ガラスは空を見通せる。手前の舞台上に、「レースのカバー」の附いたソファセット、上手に「観音開きの扉つき箱」に収まった大型テレビ、下手に枝折り戸が見える。この建物はオリンピアスターパーク。ホテル、テニスコート、プールを完備し、昭和39年のオリンピック需要を当て込んで、湯たんぽ会社の社長諸星光作(山崎一)が着工しようとしているのだ。しかし光作は不慮の死を遂げ、昭和38年11月の開業一か月前の披露パーティーを、娘の瞳(小池栄子)がとりしきるところ。だがそこには瞳の元夫木ノ内是晴(きのうちさだはる=井上芳雄)や、是晴の婚約者の大東結(おおひがしむすび=松岡茉優)がやってきて、なんかすっごくややこしく、笑えるのだった。

 木ノ内是晴の井上芳雄が、とても適っていて、よかった。いろいろと笑劇の要素が多いが、男女の思いの芝居としても成立している。ただ自分の好みとしては、「切なさ成分」が、も少しあったほうが好きだなという気はする。

 ドーム状のガラス張りの建物の中で、登場人物が「希望」や「選択」を語る。高度成長というのは身の回りにたくさん、自他を切り離す「かご」のような建物を、せっせと積み上げた時代だったのかもしれないと思った。